台湾・馬総統 2期目スタート【就任演説内容】

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 中華民国第13代正副総統就任式典が20日午前、総統府で行われ、馬英九総統と呉敦義副総統が正式に就任した。馬総統は就任演説の中で今後4年続く2期目への決意を語った。
 
▽馬総統の就任演説全文は以下の通り。

 
理想を堅持、手を携えて改革、幸福な台湾を打ち立てよう
 
 友好国の元首の皆様、来賓の皆様、華僑の皆様、全国民の皆様、テレビならびにインターネットでご覧いただいている皆様、おはようございます。
 
五度目の総統直接選挙の歴史的意義:成熟した民主社会に向けて
 
  1月14日、私たちは中華民国にとって五度目の総統直接選挙を無事実施しました。これは、台湾が成熟した民主社会にまい進していく重要な一里塚です。自由と公正な選挙のプロセス、台湾の有権者全体が示した高度な民主政治の素養は、いずれも国際社会から賞賛されました。私は、私と争った、民進党の蔡英文主席(当時)と親民党の宋楚瑜主席が、選挙結果が明らかになってから見せた民主的な精神を称えたいと思います。皆様、一緒に台湾の民主政治に喝采を送ろうではありませんか。
 
過去4年の回顧:改革の効果は現れ、国家は正しい道に復帰
 
 過去4年間を振り返り、まず、私は全国の皆様のご支持に感謝したいと思います。私たちは共に世界的な金融危機の嵐を乗り越え、台湾の経済成長を「東アジアの四小龍」(台湾・韓国・シンガポール・香港)のうち上位に返り咲かせました。私たちはまた、「88水害」(2009年8月の台風被害)の衝撃を共に経験し、ふるさとの再建を果たしました。私たちは、政治の風紀を正し、憲法の精神を守り、司法の公正さと透明性を高めました。私たちは中央政府のスリム化と県・市の合併、直轄市への昇格という二つの大きな改革を完成させました。私たちはまた、省エネルギーと二酸化炭素排出量の削減にも努め、「居住の正義」を推進し、社会のセーフティーネットを大幅に拡大しました。そして、過去60年で最も平和な台湾海峡情勢を作り出し、長期的なパートナーたちの信頼と国際社会の評価を得て、中華民国の国民は127の国と地域に、あらかじめビザを取得せずに行けるようになったのです。
 
 私はここで、蕭万長前副総統、劉兆玄元行政院長、呉敦義前行政院長、陳冲行政院長ならびにすべての施政チーム、および王金平立法院長(国会議長)率いる立法院(国会)が、過去4年間、国民とともに懸命に努力してくれたことに感謝します。私は皆様の辛労と貢献に対して、心より感謝し、今後も皆様の経験と知恵を引き続き借りていきたいと思います。
 
黄金の十年:五本の柱で、台湾の競争力を高める
 
 向こう4年を展望し、私は「黄金の十年」の国家ビジョンをもって、すべての国民と共に奮闘していきたいと思います。私たちの目標は、平和で公平、正義のある幸福な国を建設することです。政府は、「経済成長のエネルギー強化」、「雇用の創出と、社会における公平と正義の定着」、「低炭素とグリーンエネルギーの環境づくり」、「文化的国力の構築」、及び「人材の積極的な育成と招聘」を国家発展の五本の柱として、台湾の国際的な競争力を全面的に高め、台湾を向こう4年間でまったく新しく生まれ変わらせ、幸福な社会へとまい進させていきます。
 
 経済成長のエネルギー強化は、台湾の競争力を高める一本目の柱です。そしてこのエネルギーの核心は、経済環境の自由化と産業構造の質的向上にあります。
 
 私たちは、アメリカと韓国の自由貿易協定が今年3月に発効したのを目にしました。中国大陸と日本、韓国の自由貿易協定交渉も年内にスタートします。私たちは自由化の歩みを速めなければなりません。これ以上、時間を無駄にしてはならないのです。台湾が世界に向けてオープンにならなければ、世界が台湾を受け入れることはありません。世界の政治・経済の秩序が再編され、経済の重心がアジアへとシフトする時代に向き合い、私たちは保護主義の思想を改め、時代にそぐわない法制度を見直し、貿易と投資に対する人為的な障害を取り除き、台湾のために、真に自由で開放された、国際社会とリンクする経済環境を整える必要があるのです。
 
 私たちは現在、「自由経済モデルエリア」の設立を計画しています。高雄市はそのうちの一つです。これは台湾が「自由貿易アイランド」へと向かうための鍵となる第一歩です。私たちは、台湾海峡両岸経済協力枠組み協議(ECFA)の後続交渉を全速力で終わらせるべきです。また、シンガポール、ニュージーランドなど、主な貿易パートナーとの経済協力協定の締結に向けての話し合いも加速し、さらには8年以内に、環太平洋戦略的経済パートナーシップ協定(TPP)参加への準備を整え、世界の経済貿易体系に加わる歴史的なチャンスをつかまなければならないのです。
 
 わが国の産業はかつて輝かしい業績を上げました。しかし、成長はすでに行き詰まっている状態です。私たちはこれから、産業構造の質的向上を積極的に進め、これまで効率を強調してきた生産モデルを基礎としながら、「イノベーション主導」と「価値の創造」を軸とする新たな産業モデルを積極的に発展させていくべきです。私たちの戦略は、サービスの特質を製造業に取り入れ、科学技術と国際化の要素をサービス業に取り入れるというものです。さらに、従来型産業には特色を打ち立てます。こうしてこそ、私たちの産業はより多元的になり、さらに高い付加価値を生み出せるのです。また、私たちの産業は確実に生まれ変わることができ、世界の経済体系の中で、取って代わることのできない地位を築くことができるのです。
 
 台湾の競争力を高めるための二本目の柱は、雇用の創出と、社会における公平と正義の定着です。グローバリゼーションによる市場の自由化は労働市場の競争を国際化しています。経済成長を追求しなければ、私たちはより多くの雇用機会を生み出すことはできません。経済成長は各業種同時の給与上昇を促すものであるべきで、そうでなければ成長に意義はありません。そして私たちは公平と正義を堅持し、貧富の差を縮め、経済成長の恩恵を国民全体で享受できるようにすべきです。
 
 政府の財政構造健全化は喫緊の課題です。私たちは、「能力に見合った課税」と「租税の正義」を確実に実現し、万全な社会安全体系を構築、社会的弱者たちの基本的な権益を守ろうと努力しています。同時に、インフラストラクチャーや公共サービス、教育資源を合理的に配置し、バランスが取れ、それぞれが特色を持つ地域の発展モデルを作り上げることで、都市と地方の格差を縮めていきます。すべての人に、性別や地域、血縁や出身を問わず、公平に幸福を追求できる機会が与えられねばならないのです。
 
 長期的な少子化と高齢化は、台湾が直面する国家の安全保障にかかわる課題です。私たちは先見性ある人口政策を策定し、行き届いた国民健康保険制度と国民年金制度を確立すると共に、長期的なケア体系をできる限り早く整備する必要があります。幼児に対する、より行き届いた託児と支援の措置を取り、両親と子供たちに最も温かいサポートを提供するのです。
 
 司法は人々の権益を保障する正義の防衛ラインです。4年来、私たちは「刑事妥速審判法」(審理加速法)、「裁判官法」、「家事事件法」(家庭事件法)を成立させました。また、「廉政署」を設置したほか、最高裁判所における担当裁判官の案件秘密分配制度も歴史上のものとなりました。司法は独立していなければなりませんが、孤立することは絶対に許されませんし、司法の正義に対する、人々の理にかなった期待を裏切ることもあってはなりません。向こう4年間、私は力を尽くして、社会の動きと結びついた司法改革を全力で推し進め、わが国が100年前に西洋社会から導入した司法制度を、しっかりと台湾に根付かせ、法治を私たちの生活方式とし、人権を私たちの内面的な価値にしていきます。
 
 台湾の競争力を高めるための三本目の柱は、低炭素とグリーンエネルギーの環境づくりです。地球の気候変動と資源の需給アンバランスは台湾にとっての挑戦であり、チャンスでもあります。将来、世界のすべての産業はグリーンな生産を重んじるようになります。グリーン産業は今後、産業競争の新たな領域となり、消費形態も省エネルギーと二酸化炭素排出量削減の要求に応じていかねばなりません。私たちは、民間が、グリーンエネルギー産業やグリーン建築、グリーン生産の研究開発や投資を拡大することを奨励、グリーン産業を雇用と成長を牽引する新たな魅力的なポイントとして、台湾を一歩一歩、「低炭素のグリーンエネルギーアイランド」にできるよう努力します。私たちは、持続可能な発展の理念を堅持し、澄んだ青空、清潔な空気、豊かな水資源、活力あふれる山林、渓流、湿地と海を、次世代に残していかねばなりません。
 
 政策上、私たちは、エネルギー価格を合理化し、省エネと二酸化炭素削減、及びグリーンエネルギー産業に対する投資促進の原動力を生み出します。石油製品や電力事業など公共事業を市場メカニズムに回帰させ、「使用者による負担」の原則を定着させます。そしてさらに、国営事業の改革や経営効率の向上などに対する国民の高度な期待に応え、消費者と生産者にウィン・ウィンの局面をもたらします。
 
 文化的国力の構築は、台湾の競争力を高めるための四本目の柱です。台湾には三つの文化的特質があります。まず、公民としての素養が深いこと。次に、伝統的な文化が万全な形で保存されていること。そして三番目に、伝統と現代とのつながりと転換が極めて繊細であることです。民主制度が私たちの公民社会を作り上げました。公民社会における開放的な気風と自由の精神は、創作者たちを育てる土壌となりました。開放と自由の土地で、私たちはタイワニーズオペラや、人形劇の布袋戯(ボテヒ)など、伝統文化を保存する一方で、雲門舞集(クラウドゲイト・ダンスシアター)、朱宗慶打撃楽団(ジュー・パーカッショングループ)など、現代芸術のブランドをも生み出しました。私たちはハイテク化と国際化を追求すると同時に、一方では庶民の文化的公民権も主張しているのです。
 
 開放的な社会だからこそ、あふれるほどのアイデアが生まれ、自由な環境だからこそ、大胆な発想が可能となります。台湾の創意は映画や流行音楽、書籍出版物などに注がれ、これらは文化産業となりました。いずれも世界の中国語社会において重要な地位にあります。しかし、産業にはそれをまとめるツールが必要です。文化的価値とコンテンツを、創意による価値の付加と知的財産権のメカニズムを通じて、世界に販売可能な経済的生産高へと転換するのです。経済的な生産高はそして、創作者の元へと戻って彼らを潤します。
 
 文化は芸術やアイデア、産業というだけではなく、人々の日常生活の一部でもあります。最近、中国大陸の著名な作家、韓寒氏が台湾を訪れて自ら体験したことを発表しました。タクシーの運転手が落し物を持ち主に届け、メガネ店の主人が、メガネを壊して困っている観光客を熱心に助けようとしたことに、彼はショックを受け、感動したのです。また、さきごろ、花蓮のタクシー運転手、曽世誠さんは日本人の乗客が置き忘れた財布を、自動車を飛ばし、タグボートを介して、すでに港を離れていた客船に追いつき、最後は財布をかごに入れて引き上げてもらう形で落とし主に届けました。私は、人を泣かせるこれらの善行が、中華文化における「善良さ」と「誠実さ」の核心的な価値であり、台湾の日常生活に溶け込んでいるのだと思います。
 
 私たちは、文化を国力とみなし、文化の建設を国力の構築だと考えます。文化への投資は国力への投資なのです。
 
 積極的な人材の育成と招聘は、私たちが台湾の競争力を高めるための五本目の柱です。台湾には天然資源が乏しく、人材こそが私たちの最も重要な資源であり、国家の発展の鍵であるからです。
 
 私たちは、大学のキャンパスを台湾の人材育成のゆりかご、そして、国家の競争力の源にしなければなりません。私たちは、開放的かつ、先を見すえた政策で、住みやすく、フレンドリーで、国際化され、差別無く、待遇の面でも他国に劣らない受け入れ環境を整備し、台湾の優秀な人材をつなぎとめると共に、世界の優秀な人材を招き入れるべきなのです。
 
 私たちはいかなるときも子供たちに関心を寄せています。一人ひとりの子供に、経済的に豊かであるか貧しいかを問わず、国家の優れた人材となり、向上するチャンスがある、これこそが教育の中核です。実際に、映画監督のアン・リー(李安)氏やグラフィックデザイナーの蕭青陽氏らがクリエイティブな分野で異彩を放つだけでなく、張逸軍氏と陳星合氏といった人もシルク・ドゥ・ソレイユの舞台に立っています。ファッションデザイナーの古又文(ヨハン・クー)氏や呉季剛(ジェイソン・ウー)氏も世界のファッション界で輝きを放っています。これまでの4年間、台湾の若者たちがヨーロッパやアメリカ、アジアなどの国際的な発明展やデザイン展で、次々と優勝しています。台湾はきわめて優れた人材と創造力を備えています。さらに心を込めて次の世代を育てるべく、義務教育年限を12年に延長する、良質の「12年国民基本教育」を提供し、一人ひとりが命を輝かせてほしいと考えて
います。
 
 国が発展するためには、改革が必要です。改革のためには、これに伴う痛みを受け止めねばなりません。私たちは絶対に、厄介な問題だからといって重い負担を次世代に残してはならないのです。私は、二期目を担う総統として最も重要な責任と使命は、国民とともに幸せな未来を作り上げることだと深く理解しています。これからの任期において、私たちは揺るぎのない足どりで踏み出し、人々の支持を得るべく、リアルタイムで深く広くコミュニケーションを図っていきます。五本の柱で「幸福な台湾を打ち立てる」、これが私の二期目の目標です。台湾は競争力を高めてこそ生き残ることができるのであり、人々の幸せを守ることができるのです。
 
国家の安全を保障する鉄のトライアングル:両岸の和平、活路外交、強固な国防
 
 国家の安全保障は中華民国の生存の鍵です。私は、両岸の和解により台湾海峡の和平を実現し、実務的な活路外交によって国際社会における活躍の場を切り拓き、国防力によって外からの脅威を抑止することが、台湾の安全を確保する鉄のトライアングルとなると認識しています。私たちはこれらの一つひとつをひとしく重視し、バランスを取りながら展開していかねばなりません。
 
 鉄のトライアングルの一つめの頂点は、両岸の和解により台湾海峡の和平を実現することです。これまでの4年間、政府は「対等、尊厳、互恵」の理念と、「台湾を主とし、人民に有利であること」の原則を堅持しながら、両岸の制度化された交渉を再開させ、16項目の協議(協定)の締結を通じて両岸の和解を実現させてきました。行政機関は公開・透明を以って国会に対する責任を負い、野党との意思疎通を強化し、共通認識の達成に取り組んできました。これにより両岸の和解に制度的な保障が確立しました。
 
 過去4年間、私たちは、両岸関係を改善し、台湾海峡の緊張を緩和してきたことで、平和と繁栄をもたらし、広く人々の支持を集めました。しかしながら、私たちの対中国大陸政策に疑念を示す人も一部存在しています。私はここで、中華民国憲法が両岸関係に取り組むにあたって最高の指導原則であるということを謹んで申し上げます。両岸政策は中華民国憲法の枠組みのもと、「統一せず、独立せず、武力行使せず」という台湾海峡の現状を維持し、「1992年コンセンサス、一つの中国の解釈を各自表明する(九二共識、一中各表)」を基礎とし、両岸の和平を推進しなければなりません。そして、私たちの言う「一つの中国」とはもちろん、中華民国のことです。中華民国の領土は憲法に基づき、台湾と中国大陸を包括していますが、現時点で政府の統治権が及ぶのは台湾・澎湖・金門・馬祖にとどまっています。つまり、この20年来、憲法による両岸の位置付けは「一つの中華民国、二つの地区」であり、3人の総統の時期を通して、まったく変わりはありません。これは、もっとも理性的で実務的な位置付けであり、中華民国の遠い未来を見据えた発展と、台湾の安全保障のよりどころとなっています。両岸はこの現実を直視しつつ、共通点を求めて相違を残し、「相互の主権を承認せず、相互の統治権を否認せず」という共通認識を確立してこそ、安心して前に進むことができるのです。
 
 これまでの4年間、私たちは「急ぎのものを先に、その他の問題はゆっくりと・解決しやすい問題を先に、難しい問題は後から・先に経済に対処し、後から政治問題を話し合う(先急後緩、先易後難、先経後政)」の原則にのっとり、両岸の交流を推進してきました。経済・貿易から交通、衛生、文化、教育、司法、金融などの分野まで、両岸の交流は過去最高の活発さをみせています。これからの4年間で、両岸はさらに新たな協力分野を切り拓き、引き続き平和を強固なものとし、繁栄を拡大し、相互信頼を深めていかなければなりません。そして、両岸の民間団体が、民主、人権、法治、市民社会などの分野で、より多くの交流と対話の機会を持ち、両岸の平和の発展にとってより有利な環境を打ち立ててくれることを望んでいます。
両岸の人々はひとしく中華民族の遺産を受け継いでいます。血縁と歴史、文化をともにし、ひとしく国父である孫文先生を尊敬しています。私たちは、国父の「天下は公のもの(天下為公)」という理念と、「自由、民主、均富」という建国の理念を忘れてはなりません。台湾は民主制度を実現してきた経験をもって、中華民族の土壌が外来のものである民主主義制度を少しも排除しないということを証明しています。私は、中国大陸において政治的参加が徐々に開放され、人権と法治が日増しに整備され、公民社会が自主的に成長し、両岸の人々の心理的な距離がさらに縮まることを心から望んでいます。
 
 鉄のトライアングルの二つめの頂点は、実務的な活路外交によって国際社会における活躍の場を切り拓き、国際的な貢献を拡大することです。これまで4年間、私たちは「砲火外交」の手法を取らず、「活路外交」と「公正外交」の道を選んできました。「正当な目的、合法的なプロセス、効果的な執行」という対外援助の原則のもと、友好国との協力計画を進め、友好国も国際機関においてわが国のために絶えず正義に基づいた発言をしています。アメリカとも信頼関係をあらためて構築し、意思疎通のルートを強化、多くの分野で密接な協力を展開し、過去30年来でもっとも強固な「安全保障・経済パートナー関係」を築き上げました。日本との間では在外公館の設置や、航空、文化、投資などの分野で軒並み重要な成果を上げ、過去40年来で最も友好的な「特別なパートナーシップ」を確立しています。欧州連合(EU)や欧州議会もそれぞれ数回にわたる声明発表や決議を通じ、私たちの対中国大陸政策や、台湾・ヨーロッパ間の経済・貿易関係の強化を支持しています。
 
 国際社会における活躍の場の開拓については3年前、38年の間離れていた世界衛生機関(WHO)年次総会(WHA)にオブザーバーとして復帰しました。 2010年には、世界貿易機関(WTO)の政府調達協定(GPA)にも参加しました。このように、両岸関係の進展と私たちの国際社会における活躍の場の拡大は、相互に対立するものではないばかりか、相互に補完するものであることは事実が証明しています。これからの4年間、私たちは気候変動や民間航空といった分野の国連専門機関や国際的な枠組みの関連活動など、国際機関への参加をさらに広げていきます。国際的な非政府組織(NGO)においても、両岸がともに許容し合い、相互に助け合うという、よき循環のモデルがより大きな効果と利益を生むよう願っています。
 
国際貢献の拡大において、台湾の世界での活躍を支えている最も貴重な財産は、民間組織の満ち溢れる活力と、「すべての人と万物を愛する」という人道的な思いやりです。
 
  2010年1月、ハイチで大地震が発生した際、現場に駆け付けたわが国の特種捜索救援隊の陳順天分隊長と電話で話しましたが、電話の向こうから興奮した叫び声が聞こえてきました。それは、彼らが15分前に生存者を1人救い出したからでした。これはわが国による国際的な捜索救援の歴史における初めてのことでした。昨年3月11日の日本での東日本大震災・大津波災害では、民間と政府が力を合わせ、台湾元で66億元を寄付しました。これは世界一というだけでなく、ほかの90カ国余りを合わせた義援金総額を超えるものです。また、被災地で高齢者のために黙々と奉仕する台南の若い女性、蔡雨樺さんの善行に、両国の人々が感動しました。今年4月に訪問したアフリカで私は、現地で20年近くも医療に従事する黄其麟医師に会いました。黄医師は厭うことなく労力を捧げ、世界の人々に台湾の医師の白衣の下にたぎる熱い血潮をみせてくれました。このような例からも、台湾人が満ち溢れる命の情熱と困難を恐れない強靭さを備えており、台湾が真心からの友情を結ぶことができる原動力となっていることがわかるでしょう。
 
 鉄のトライアングルの三つめの頂点は、国防力によって外からの脅威を抑止することです。「天下は安泰でも、戦いを忘れては危険だ」と古いことわざも言っています。私たちは戦いを求めませんが、戦いを恐れるものではありません。この4年間、私たちの防衛産業の自立と、新世代の兵力の強化、復興や災害救助などの取り組みにおいて、すべて目に見える成果を上げています。同時に、訓練の質・量を高め、国軍兵士の体力と技量を大幅に向上させました。さらに軍紀を引き締め、汚職の追放・防止でも際立った成果を上げました。これも軍備体制の整備における具体的な業績です。
 
 海外からの武器調達においては、私の就任以来、アメリカはすでに三度にわたり、軍事設備の売却に同意しています。調達総額は183億米ドルで、質・量ともに過去を上回るものです。これによって、私たちは今後適切な防衛力を備えることができ、政府と人々がより自信と意思をもって、安定的に両岸関係の発展に取り組むことができるのです。
 
 今後4年間、私たちは自ら生産することの難しい防衛力としての武器を海外から調達していきます。また、兵士募集制度とその関連措置を整備して、「堅い守り、効果的な抑止」という戦略のもと、「革新的、非対称」の考え方で、量的には少なくとも、質的に洗練された堅固な国防力を確立します。これと同時に、わが国と周辺諸国との関係を強化し、積極的に国際業務に参与し、制度化された戦略的対話と協力の道筋の構築を推進、中華民国の主権と台湾の安全を保障し、地域の和平に積極的に貢献していきます。
 
歴史の分水嶺に立って:新たな百年に向け、良きスタートを
 
 国民の皆様、私はこれまでの4年間を振り返り、心から深く感激しています。私たちは、ともに金融危機の嵐を乗り越え、ともに建国100年という喜ばしいときを迎えました。また、自然災害という巨大な変化の爪あとに涙を流し、台湾の若い世代のさまざまな分野での活躍に、眠れぬほど喜びました。
 
 私たちは家族です。台湾は私たち共通の家です。与野党の間にいかなる見解の相違があろうとも、私たちは家族なのです。過去の数年間、与野党間の和解には少なからぬ困難が存在しています。しかしながら、民主主義は私たち共通の価値観であり、この基礎の上で、必ずや共通認識を見い出し、力を合わせて問題を解決することができると私は信じています。この4年間、相次いでさまざまな市民団体を招いて話し合ってきました。私は、なるべく早い時期の野党のリーダーとの対話を、誠意を持って願っています。与野党は相互に競争するだけでなく、お互いに協力することができると人々に示さねばなりません。全国民の福祉のため、ともに台湾の民主制度のよき規範を築こうではありませんか。
 
 今年は中華民国101年であり、私たちはいま、歴史の分水嶺の上に立っています。過去100年間、先人たちの奮闘のプロセスを目撃してきました。今後100年間における、国家の課題とチャンスの輪郭もはっきりと見えています。私は幸運なことに、中華民国がこの新たな100年に足を踏み入れてから初めて就任する総統として、この上なく重大な責任を感じています。
 
 この荘厳で神聖な式典において、私と施政チームはあらためて全国民の負託を受けました。私たちは、きわめて大きな重責を背負い、深い淵の際に立ったような心持ちと、薄氷を踏むような態度で、憲法によって賦与された職責を全力で履行して初めて、国民の信頼と負託に応えることができるのです。
 
 新たな100年のスタートラインに立ち、今日私たちが築いた土台が、子供たちが未来に向かって歩むときの堅実な基礎となることを願っています。今日私たちが植えた若い苗木は、たえず成長し、次の世代が享受できる実を結ぶことでしょう。ともに理想を堅持し、手を携えて改革に取り組み、幸福な台湾を打ち立てましょう。
 
 ありがとうございました。
 
【総統府 2012年5月20日】