出色の映画「呉さんの包丁」(台湾映画祭2019・福岡)

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2019台湾映画祭のポスター

台湾映画祭上映実行委員会(毎日新聞西部本社、福岡市ほか)が主催し、台北駐日経済文化代表処台湾文化センター、台北駐福岡経済文化弁事処、台湾観光協会大阪事務所が後援する「台湾映画祭2019」が9月12日~17日の日程で、福岡アジア美術館8階「あじびホール」で開催された。

これは福岡市の「アジアフォーカス・福岡国際映画祭」の関連企画として行われたもので、上映されたのは「52Hzのラヴソング」、「台北ストーリー」、「台北暮色」、「呉さんの包丁」の4作品。

九州初上映のものもあって、見逃しのないように毎日3作品づつ(初日と最終日は2作品)上映し、どの作品も期間中に4回の観賞機会があるように配慮された。

初日の12日には、まず「台北ストーリー」が上映された後、オープニングセレモニーが行われた。

主催者を代表して最初に挨拶に立った毎日新聞西部本社の松藤 幸之輔編集局長は、まず台湾映画祭が今年10回目を迎えるなど、長く続いてきたことに対して関係者の努力と応援をしてくれている人々への謝意を表した。

また、自身の台湾旅行のエピソードをまじえつつ、今回の観賞で台湾の風土、魅力を感じてもらい、ぜひ台湾を訪問し、友好、親善を深めて欲しいと述べた。

挨拶する松藤編集局長

次いで台北駐福岡経済文化辦事処の陳忠正処長(総領事)が、毎日新聞社、福岡市などの関係者、「呉さんの包丁」の林 雅行監督に祝意を伝えるとともに、福岡の方々に台湾の映画を見て貰えることの喜びを述べた。

また、訪日台湾人が年間480万に達するなど、経済、文化、観光、スポーツ、音楽、修学旅行、ホームスティなど、日台間のあらゆる分野で活発な交流が続く中で、映画を通じて更に台湾の生活や文化への理解が深まり、交流の質が高まることへの期待をにじませた。

陳忠正處長の挨拶

映画「呉さんの包丁」で金門島を描いた林 雅行監督は、これまで6本の台湾のドキュメンタリーを作ってきたにも拘わらず、金門島を舞台にした映画を作ると言った時に会社のみんなが反対したこと。台湾観光協会の人までも「エーッ!」と驚いたことを披露し、金門島を掲載していない旅行書があるほど日本人にとって意識の希薄な金門島が現代史の中でどれほど大きい役割を果たしたのかを知ってもらい、島民がどんな生活をしているのかを知ってもらえればこの映画を作った意味があると述べた。

林雅行監督

林監督のメッセージに続いて上映された「呉さんの包丁」は確かに観客に大きい衝撃を与えたようだった。上映中に何度も「ほーう!」、「そうだったのか」という小さな声が聞こえてきた。

1958年、毛沢東率いる共産党軍が数週間で約50万発の砲弾を打ち込み、国民党軍も負けじと打ち返し、78年まで両岸から大量の砲弾を撃ち合ったといわれる様子が歴史的背景とともに紹介される。その間、旧日本陸軍の根本 博中将が国民党軍の作戦顧問を務めたことなども映画に挿入され、改めて我々に歴史認識を問いかける。

共産党軍が宣伝用のビラを撒くために撃ち込んだ砲弾を材料に、戦闘が終わった金門島で包丁を作る職人・呉さんは「砲弾は僕にとって空からの贈り物だ」と語り、中国本土からの観光客が呉さんの包丁を買い求めるにあたって、「原材料の砲弾は中国のものだから、その分値段をまけろ」というエピソードも紹介される。

その呉さんに「将来はどうするのか?」と聞くと「成り行きに任せるよ」と答えるところが観客の心に余韻を残す映画となっている。

台湾のことを知りたい人も、そうでない人も、現代史を見つめなおすのに必見・出色の映画であろう。