台湾コロナ防疫措置 × 経済 マスク国家隊と防護服国家隊で経済界、政界あげて台湾団結

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蔡総統(中央)、新型肺炎対応の特別条例法案に署名。右から蘇貞昌行政院長、蔡英文総統、陳時中衛生福利部長(写真提供:台湾貿易センター、中華民国総統府)

台湾貿易センターは、台湾新型コロナウイルス感染症の迅速な防疫措置について、政治、経済、産業面から見解をまとめる。

新型コロナウイルス感染症は2019年12月に初確認されてから今もなお広がり続け、台湾を含め、米国、日本、ヨーロッパ等世界各地で感染者が確認されている。だが台湾はWHOの発表よりも先に、比較的早い段階で措置を講じてきた。現在台湾は他国と比較しても、新型コロナウイルス感染症例数はそれほど増加していない背景には、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)流行時の経験が現在に生かされており、台湾政府の防疫措置の「迅速さ」にある。

蔡政権は1月11日の台湾総統選挙からわずか4日後、1月15日には新型コロナウイルス感染症を検疫時に隔離措置を可能とする「指定感染症」にいち早く定め、1月20日には対策本部に当たる「中央感染症指揮センター」(中央流行疫情指揮中心)を設置した。指揮センターは陳時中 衛生福利部長(衛生福利相)がトップを務め、防疫の現場を支えている。指揮センターの会見は毎日行われていて、その都度報道、質疑応答にも真っ向から向き合い、メディアから手が上がらなくなるまで質問に答えている。

台湾工作機械企業一致団結!「マスク国家隊」確立

2月22日には台湾で「マスク国家隊」が確立。マスク国家隊は、台湾精密機械研究センター(PMC)の研究開発及び技術、そして更には台湾工作機械業界最大手東台精機、台灣瀧澤科技、永進機械工業、亞崴、ハイウィン、大銀等、台湾工作機械企業の協力の基、確立された。これら企業は工作機械産業において、どこもパイオニア企業で、競合同士、業界の大手企業。今回のコロナウイルス感染症の影響を受け、各企業の社長は皆自社事業を一旦ストップし、各企業との協力提携を決断、皆無償で「人員、製造、部品」を供給したのだ。これにより過去に例を見ない強力なマスク国家隊の確立が実現され、精密機械研究センター(PMC) 賴永祥総経理は、「台湾政府により2億台湾元(約7億円)が投じ、マスクの生産設備60基を導入、マスク増産が指示され、当初は生産に少なくとも半年かかると予想されていたが、”国家隊”皆の協力のもと、1ヶ月で生産することが出来た。」と話す。

「マスク国家隊」のおかけで、台湾国内におけるマスクの生産量は、3月9日時点で920万枚に達しており、3月中旬には日産量1000万枚に到達する見通しだ。

日本では深刻なマスク不足が続いているが、台湾政府はいち早くマスクの輸出及び転売を禁止し、国内のマスクを買い上げ、購入実名制を導入した。政府が総力を挙げて物資確保に取り組み、医療機関への優先的配布といった素早い対応で、各国で起きているマスクの買い占めによる不足や高額転売問題を回避している。さらに、デジタル政策を担当する唐鳳(オードリー・タン)行政院政務委員(無任所大臣に相当)によりマスクの在庫が一目でわかる「マスク在庫マップ」アプリが開発されたのは周知の事実だろう。

デマ情報拡散防止にも唐鳳(オードリー・タン)行政院政務委員は一役買っている。彼女はかつて有名なハッカーであったが、SNSで自由に情報発信できる開放的な社会において、デマ情報は脅威であると話す。日本でもトイレットペーパーやティッシュが品薄になるというデマ情報が拡散されたが、台湾では各政府部門にSNS監督チームを設けている。SNS監督チームは常にネット上のデマ情報に目を光らせ、デマ情報を見つければ、1時間以内に事実確認をした上で、より根拠と説得力のある情報を配信しデマ拡散によるパニックを防ぎ先手を打っている。

郵便事業を担当する中華郵政公司が協力し、台湾各地の保険薬局に順次配送。消費者による買い占めを避けるため、薬局ごとに配布数を定めている。(写真提供:台湾貿易センター、中華民国交通部)

縁の下の力持ち「防護服国家隊」

 「マスク国家隊」のみならず、台湾では「防護服国家隊」が確立されている。台湾経済部(経済産業省相当)指揮センターから防疫現場の第一線で戦う医療防疫員のためにも防護服を製造してほしいという依頼を受け、台湾の繊維産業の企業に協力を呼び掛けた。ウイルスが蔓延すると、本来紡織産業はガーゼや布の需要が高まり受注数が増え稼ぎ時になる。だが経済部の呼び掛けに、台湾の紡織企業は受注数を減らしてでも、台湾の現場医療員のために国内防疫物資の製造に協力した。「防護服国家隊」は、衛普(WEB-PRO)、恆儀(CAI)、 南六企業、儒鴻、聚陽等の台湾紡織企業の協力により既に100万着の防護服が製造されている。

大手紡織企業の聚陽の周理平会長は「以前防護服は輸入に頼っていたが、今では台湾国内で研究開発から生産まで全工程が出来る」と話す。防護服はかつて台湾でSARSが流行した時に研究開発されたもので、研究開発費には「無上限」の予算とコストを投じたと強調し、台湾紡績企業も台湾の防疫を支えている。

初期の水際対策が功を奏する

医師出身の陳其邁行政院副院長(副首相)が新型コロナウイルスによる肺炎について蘇貞昌行政院長(首相)に報告したのは、昨年2019年12月31日のことだった。蘇氏の指示で、即座に水際対策の強化を決め、武漢からの直行便に対して検疫を始めた。検疫官は、武漢からの全便で機内に立ち入り、全乗客乗員の健康状態をチェックした。1月の旧正月に向けて、中国大陸や海外から台湾に帰国した人たちに対し、感染者の隔離場所を手配。

1月23日には武漢の旅行者は一律で入境を拒否し、2月6日からは中国本土住民の入境を全面的に禁止する政策をとった。2月11日から入境禁止措置の対象を中国全土から香港・マカオの住民にまで広げられた。既に中国や香港、マカオを経由して台湾に入境した者に対し、入境後14日間は在宅検疫が義務付けられ、外出禁止やスマートフォンによる遠隔監視が課されている。3月1日には、日本への渡航警戒レベルを3段階うち、「レベル2」へ引き上げると同時に、中国、香港、マカオ、韓国、イタリアに加え、イランを最も高い「レベル3」に引き上げ、今後も水際対策を徹底し、予断を許さず強化していく。