日本で学んだ技術を台湾人学生に伝える台湾人野球指導者、陳文賓さん。陳さんは1996年から2002年まで台湾プロ野球チームに在籍、本塁打王を獲得するなど人気選手として活躍した。長打力と実力が認められ、2003年に日本に移籍、当時王貞治監督率いるダイエーホークスでプレーした。
陳さんは、朗らかな性格からホークスの選手やスタッフにも親しまれた。王監督をはじめ、選手達は「チンさん」と、敬称の「さん」を加えて呼び、練習終了後は共に食事をするなど、野球の部分のみならず親交を深めていった。「日本に在籍した時間に多くのことを学んだ。特に王貞治監督からは野球に対する姿勢、精神的な部分も多く教わった」と話す陳さん。日本球界退団後、台湾プロ野球界に戻り、2年間プレー。引退後は、嘉義大学や屏東県立大同高中で指導者としての道を歩き始めている。
「日本の選手は単調な練習に耐えうる精神力を持っている。日本では基本動作を大事にする。2003年キャンプでは、川崎宗則選手や城島健司選手が遅くまで残り、打撃や守備の基本フォームを徹底的に確認していた姿が印象深い。王監督には『三振を恐れず、大きな気持ちで打席に入りなさい』と指導を受けた。王さんは本塁打王だが、実は『三振王』であったことはあまり知られていない。成功を勝ち取るためには、失敗を恐れてはいけないという考え方も学ぶことができた」
陳さんが王貞治氏と久々に再会する機会したのは2011年。高雄で開催された世界少年野球大会の会場だ。主催したのは王貞治氏。陳さんは学生野球の指導者として臨席した。グラウンドにいる陳さんの姿を見つけて声をかけたのは王さんの方だった。「チンさん!久しぶり」
日本、台湾両国で尊敬の対象となる王貞治氏。その王氏から声をかけられたことで興奮気味の陳さん。「日本のチームを退団して十年近く経つのに、まだ自分のことを覚えていてくれているなんて」王貞治氏の情に感動した。久しぶりの対面では、王さんから「選手として野球に取り組むのも大変。しかし、指導者として野球に向き合うのは、更に大変なことだ。指導者も努力を続けなければならない」とアドバイスを受けた。
「日本と台湾の野球の違いには、緻密さが挙げられる。キャッチャーの配球やサインプレーは、チーム全体で細かい動きが要求される。過去のWBCで日本が2連覇を果たしたのは、完成されたチームプレーがあったから。台湾の選手に指導していきたいのは緻密で細かい野球、そして基本動作の徹底。」自らが指導する選手が将来、日本やメジャーリーグの舞台でプレーして欲しいと期待を高める陳さん。日本で学んだ野球技術を活かして、今後の台湾野球界の発展に貢献する。