旧正月における台湾人の過ごし方と台北の風景

0

台湾は春節と呼ばれる旧正月期間の真っ只中である。しかも今年は曜日配列の関係で、大晦日にあたる1月9日から新年8日目の17日までの9連休となっている。台湾には、日本のようなお盆休みが存在しないため、一年の中で長期休暇がとれるのは旧正月期間のみであり、この期間を海外で過ごす人も多い。しかし、伝統的な親戚一同が集って「一族団欒」を過ごす風習も未だ根強く、この時期の台北では、普段とはひと味違った風景を目にすることができる。

まず、街を歩く人々が明らかに少なくなる。そもそも台北には3代続いているような「台北っ子」は決して多いとは言えない。現在の台北人の多くは1960年代後半以降の経済発展によって地方から流入してきた人々である。彼等の殆どは家族を連れて故郷へ帰省し、親戚とともに旧正月を過ごす。このため、仕事納めとなる大晦日の前日「小年夜」ころから各地への交通機関が混雑することになる。台鉄、高鉄、高速バスの一大ターミナルとなっている台北駅や、離島方面の航空便が発着する松山空港の混雑は特に顕著であり、大きな荷物や手土産を持った人でごった返す。その影響で、台北市内のMRTやバスの本数も減少する。普段であれば沢山の利用客がいるはずの路線でも、人影はまばらだ。市内を縦横無尽に疾走するスクーターもこの日ばかりは少なくなる。

そして、大晦日の日からは休業する商店が多くなる。台風の日も、1月1日の元日でも休業することがなかった店舗ですら、休業をするのがこの時期である。普段は午後9〜10時まで営業を続けている飲食店や百貨店も、大晦日の日はその多くが営業時間を午後6時前後までとし繰り上げ閉店となった。特に、大晦日から初三(三が日)までは多くの商店や飲食店が休業する。こうなると営業を続けている商店はコンビニかファーストフード店となるが、場所によっては頼みの綱のコンビニですら臨時休業する場合もある。仕事などの事情で帰省できない一人暮らしの若者にとっては、辛い期間であると言えるだろう。仕事を休んで一族揃って、食べて、寝て、遊んでと言うのが、台湾人の旧正月の過ごし方なのだ。

とは言うものの、元旦を迎えれば、台北にも人々が多く集まる場所がある。廟、夜市、百貨店、そして映画館やカラオケボックスなどである。先にも述べたように台湾では「一族団欒」を大切にする風習があるが、勿論旧正月期間中ずっと家でこもっている訳ではない。一族で街へ繰り出し、廟で初詣をし、映画館やカラオケボックスで親睦を深め、百貨店でウィンドーショッピングをし、夜市で腹ごしらえをする。ただ、夜市に関しては、屋台の経営者も休暇を取っていることもあるので、目当ての屋台が営業しているかは限らないのだが、「家にいてもつまらないから、とりあえず外へ出てみよう」と言う家族連れが続々と集まってくる。これらの場所の活気は、通常と変わらない光景が広がっており、ひっそりと静まり返った大晦日に比べると、不思議な安心感を抱かずにはいられない。

この様に見ると、台湾、特に台北の旧正月は日本人が観光するには適さない時期かも知れない。しかし、この期間中に各地で見られる台湾人の仲睦まじい「一族団欒」の姿からは、台湾人の人情味ある心の温かさの源を垣間みることができるだろう。日本では二年前の東日本大震災以降、「絆」と言う言葉がクローズアップされるようになったが、台湾人の様に一族が集って食卓を囲み、同じ時間を過ごすことこそが、家族や一族の団結に必要な習慣なのではないだろうか。台湾の一見何もない旧正月の過ごし方は、台湾人の家族を大切にすると言う考えが大きく反映されており、日本人にも学ぶ点が多いのではないだろうか。