「日台漁業取り決め」が5月10日正式発効した。台湾漁船は八重山諸島の北側から北緯27度線の間で、日本が主張していた中間線を超えた操業が可能となった。しかし5月7日に行なわれた「日台漁業委員会」第一回会合では具体的な操業のあり方について話し合われたが、日台の主張は食い違い、今年中に二回目を開催することが決まっただけで、進展は見られなかった。では「日台漁業取り決め」の合意にはどんな意義があったのだろうか。成果と今後の課題について日台双方の有識者に話を聞いた。
横浜国立大学笠原政治名誉教授は「尖閣の問題を素通りして、交渉を漁業問題に限ったことは上出来」と評価する。漁業交渉ならば、どんな形になるにしても「解決の可能性」があるからだ。ただ、日本側が譲歩したことで八重山の漁業関係者から不満が噴出したことについては「当然と言えば当然。生活がかかっているのですから、両方ともニコニコ笑って決着するとは思いません」と漁業交渉の難しさを指摘する。
ただ、「元々沖縄と台湾双方の漁業関係者の間には捻じれた感情はなかった」、「(戦後は)宜蘭の漁民と八重山漁民の間でサンゴの採取などをめぐり小さなトラブルを抱えつつも、おおむね共存してきた」と語る。状況が変化したのは1972年の沖縄本土復帰、日台断交以降。「海上保安庁がだんだんと台湾漁民を排除していった」と言う。「『落としどころ』が適切で、双方の不満を小さく抑えられれば、後々まで遺恨を残さずに済むのではないか」と語り、今後の漁業委員会こそが問題解決の重要な場所であると語る。
台湾国立政治大学薛化元教授は「実際の所、主権問題を棚上げすると言う考え方は、以前から存在していたが、交渉の場で実現しなかった。今回実現の背景には日本の態度の変化がある」と分析する。「東日本大震災以降、日本と言う国家全体の台湾に対するイメージが過去と比べて大きく変化した」とした上で、昨今の日本を取り巻く国際状況の変化が、日台漁業取り決めの締結に至ったと指摘する。
また、「主権問題が解決出来ない状況下で、漁業問題で双方が衝突する機会を少なくできたのは前向きに考えていいだろう。また、海洋資源の共有についても同様である」と語り、取り決めの合意を評価した。日台漁業委員会については、「一度で全てを解決する必要はない」と長期的視野で解決を目指す事が必要とした上で、「第一歩を歩めたことは新たなスタートである」と語った。そして個人的認識として「漁獲量の制限は必要」と語り、ルールの制定を期待した。
5月16日からは日台の漁業関係者による日台漁業者間会談を実施。日台漁業取り決め適用海域における漁業者間の操業トラブル防止のための情報、情報交換が行なわれている。台湾側が主張する東シナ海の「平和の海」実現には依然大きな問題を抱えているが、着実に前へと動き出している。