亜熱帯気候と熱帯気候に属する台湾は、古くは「宝の島」と称された農業資源の豊富な場所である。近年、フルーツや野菜を始めとする商品の対日輸出も積極的に行っている。台湾農林水産商品の対外輸出の中心的存在である農業委員会国際処・許桂森処長を訪ね、日本市場に対する思いや、取り組みをうかがった。
許処長は日本市場を「第一の市場」と語る。許処長は「日本の方は高品質で高価格を許容できる人たちです」、「これは非常に重要なことです」と前向きした上で、「台湾は生活水準が高くなり、農業商品自体も品質が向上しています。その上で適切な値段で販売したい」と、日本市場の魅力とその意義を語る。また「安全管理についても自信を持っています」と、台湾商品には日本でも受け入れられるだけの品質があることを自負する。地理的な要因もある。日本の気候は温帯だが、台湾は亜熱帯または熱帯気候。「これは相互に補うことができる関係です。キャベツやレタスは日本と台湾ではその季節が違います」と、戦略上においても日本市場重視の必要を語る。
現在日本に輸出されている商品は、胡蝶蘭、菊などの花をはじめ、バナナ、マンゴー、ブドウ、ライチ、スターフルーツ、釈迦頭などのフルーツが主力商品だと言う。このほか、レタスやキャベツ、枝豆、ニンジンなどの野菜。ウナギ、サバヒーなどの水産品。コメ、茶の輸出も積極的に行っている。また一風変わった所では、ピータンや塩漬け卵なども在日華僑の人向けに輸出されていると言う。また、生鮮食料品の対日輸出には制度的に困難があるとして、豚肉、鶏肉、ガチョウ肉の加工食品の輸出にも積極的に取り組んでいると語る。許処長は台湾の農林水産商品に絶対の自信を持つ。それでも「まだまだ開拓の余地はあると思います」と野心的だ。
ただ、台湾から輸出される食品には、日本人に馴染みのないものもある。この点について「忘れてならないのは、日本には沢山の華僑が住んでいると言うことです」と語る。「華僑や中国人、韓国人も合わせれば、数百万人の人がいることになります。この人口はシンガポールや香港と比較しても少ない数字とは言えません」。もちろん、日本人に馴染みがない商品だからと言って、外国人のネットワークだけに留めるつもりはない。「我々も宣伝をしたり試食イベントを行ったりすることで日本人に紹介したい。日本の納豆だってそうでしょう。我々もはじめは食べられなかった。でも健康的で、朝ご飯として最適で、消化もいい。そしたら台湾人にも受け入れられた。同じことです」と、長期的戦略で食生活に変化をもたらしたい気持ちを語った。
一方、東京笹塚にある「台湾物産館」の重要性も指摘する。台湾の商品を多くの人にPRする場所として機能しており、同時に消費者の意見を直接聞くことが出来る場所だと言う。「消費者や営業担当者からの意見を聞き、台湾でも検討を加え対応をしています」。現在、台湾で生産される枝豆のうち、9割は海外に輸出されており、日本は最大の輸出先だと言う。「だからこそ、日本の消費者の意見は大変重要だと認識しています」。また、アベノミクス以降の円安について「台湾の商品を日本に輸出する際には不利です」と実情を語る。しかし、他国の対日輸出も価格面では同様な状況にある点を指摘する。「こちらも克服する努力をしていますから、あまり大きな問題だとは思いません」。
また、今後の日本市場開拓について、首都圏以外にも大阪や名古屋などの都市にも力を入れて行きたいと言う。「現地の流通業者と協力関係を築いたり、スーパーや大型ショッピングセンターやチェーン店と直接交渉をしたいですね。台湾物産館のような店舗展開ではないですが、より多くの販売ルートを確立したいです」と、さらなる販路拡大に取り込む考えを語った。また、許処長は個人的な意見としながらも「もっと多くの日本の方に台湾に遊びに来て、台湾を知ってほしいですね」、「これ(観光)は私の業務とはちょっと違いますが」と笑う。