民進党・蔡英文主席訪日で日本政界要人らと“密会”か
来年1月に行われる総統選挙の野党・民進党公認候補の蔡英文主席は10月6日より9日までの日程で訪日し、滞在4日間という短期間に日本主要政党の自民党と民主党の訪問や、超党派の国会議員で構成される日華議員懇談会のメンバーらとの会談及び、政界の重鎮らとの交流を積極的に行った。さらに安倍晋三首相の故郷である山口県も視察し、安倍首相の弟で衆議院の岸信夫議員が山口県での全日程に同行した。
蔡主席は6日、到着した羽田空港でこのほどの訪日目的について、「総統選を前に日本の華僑らと面会し相互に激励し合う事、そして日本の各方面で意見交換を行い民進党が来年勝利した際の政策の参考にしたい。その上で、台湾と日本の経済や産業発展においての合作の機会を見出したい」と述べていたが、日台双方メディアが最も注目していたのは、安倍首相との面会の有無についてだった。
もともと同党が発表していた蔡主席の訪日予定の中には安倍首相の名前はなかったが、8日の予定に民主党の本部への訪問しか組み込まれていなかったことで、台湾側メディアはこの日に密会するのではないかという予想もあった。
実際、日本のメディアによると蔡主席は8日、民主党を訪問した後、日本交流協会の大橋光夫会長と都内ホテルで会食したが、なんと安倍首相も同ホテルで岸議員らと会食していたため、非公式に接触したのではとの観測が浮上し、日台各メディアが大きく報じた。
これについて蔡主席は同日夜、記者から「安倍首相と面会したのか」と問われると、「雲をつかむような話」とこれを否定。日本の菅義偉官房長官も、「政府として日程にコメントすることは控えたい」と述べていた。
台湾のメディアでは、もし安倍首相と本当に面会していたとなれば、次期総統選において日本のお墨付きをもらったという事になる、という報道があった。確かに日本の政界の重鎮らも台湾の政権交代を見越してか、手厚い“おもてなし”で蔡主席を迎えていた。
内閣府訪問で成果残す
蔡主席の訪問で、もう一つ注目したいのが、9日午前、内閣府を訪れていた事だ。蔡主席は内閣府訪問で、日本側と地域の平和や双方の経済協力などを話し合ったとしているが、会談相手が大臣クラスであったかについては「答えられない」とコメント。しかし、この日、訪問した際、内閣府内に経済再生担当大臣でありTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の交渉も担当している甘利明氏の事務所もあり、TPPへの参加を切に希望している台湾側としては、会っておきたい人物だったに違いない。
いずれにせよ、台湾の次期総統選の公認候補者が日本の政府機関で現職の高官と会談するのは特例であり、蔡主席は5月末~6月の訪米で国務省に入ったのに続き、日本でも対外活動の着実な成果を残したといえるだろう。
蔡英文が安倍首相の故郷視察
民進党の蔡英文主席は7日、前総統府秘書長の邱義仁氏、立法院の蕭美琴委員及び民進党副秘書長の劉建忻氏、国際部の黃志芳主任らを引き連れ山口県を訪れた。
蔡主席は山口県庁で村岡嗣政知事らと会談したほか、台湾の太魯閣号などの高級列車を製造した日立製作所笠戸事業所(以下:日立製作所)及び岩国市の錦帶橋を視察した。
蔡英文一行は日立製作所で、100人を超える従業員らから歓迎を受けたほか、日立製作所の列車製造産業についての説明を受け、川畑淳一所長の案内のもと、工場を見学し車両生産への理解を深めた。
蔡主席は「軌道車と運輸システムは、未来の台湾の運輸システムと運輸企画のうえで重要な項目の1つである。将来も台湾は交通建設部門を重視し、台湾のすべての都市で軌道システムをしっかりと造れば、環境汚染を減少させ、従業員の作業も速度を速めることが出来るだろう」と述べた。
さらに、村岡知事との面会時には「山口県は維新の里で、安倍首相の故郷でもあり、外国人にとって魅力的で訪れる価値がある場所。山口県と台湾の間にはたくさん協力できることがあると確信している」と期待を述べた。
岩国空港使用に疑問
台湾では蔡主席が山口から東京へ帰る際に岩国錦帯橋空港(以下:岩国空港)を利用した事も話題になった。岩国空港は昭和27年4月に日米安全保障条約に基づく在日米軍の基地となり、駐日米軍の管理した軍民両用の空港。台湾メディアでは、このほど日本で新たに安全保障関連法案(以下:安保法案)が可決されたこの時期にここを訪れるのは、何か意味深いものがあるに違いない、と報じた。
しかし蔡主席は、岩国空港使用について、依然として「世界文化遺産に申請している錦帶橋が見たい」ためだと表向きな理由を述べていた。
日本の2大主要政党を訪問
来日した民進党の蔡英文主席は滞在後半の8日と9日、民主党、自民党幹部らとそれぞれ会談し、意見交換を行った。
8日に民主党を訪れた蔡英文氏は民主党の枝野幹事長らに対し、TPP(環太平洋経済連携協定)について「与野党とも参加すべきだとみている」と述べたうえで、国内産業への配慮の必要性を強調した。さらに、枝野幹事長から来年の次期総統選挙について「2度目の政権をとるのも民進党が先になりそうだ」と問いかけられると、蔡主席は「選挙で敗れたあと、党再生のプロセスはつらかった。この経験から民主党が党再生のプロジェクトを展開している事に共感している」と民主党に対しエールを贈った。また、「日本と台湾、両国の関係を強化することは、必ず東アジアの平和の助けになることを信じている」と述べ、さらなる交流を期待した。現場には台湾の血をひく蓮舫の姿もあり、蔡主席はあいさつの際にも、蓮舫との面会について喜びの言葉を述べていた。
一方、訪日最終日となった翌9日には、自民党本部を訪問。細田博之幹事長代行らと会談した。蔡氏は、両党はそれぞれ再生を果たした政党であるとした上で、民進党が来年1月の選挙で再び政権与党になった後、「もう一度日台関係を共に強化していきたい」と気を引き締めた。