今年1月の台湾総統選挙で初当選した民進党の蔡英文主席は20日午前、台北市の総統府で就任宣誓を行い、正式に第14代総統に就任した。女性総統誕生は台湾で初めての事であり、8年ぶり3回目の政権交代となった。
同式で最も注目を集めていた総統就任演説で蔡総統は、台湾と中国大陸の両岸関係に言及。台湾を中国の一部とする「一つの中国」原則と、それを確認したとされる「1992年コンセンサス(九二共識)」については、「1992年に中台双方の窓口機関が会談した歴史的事実を尊重する」と述べるにとどめ、1992年コンセンサスという言葉は用いなかった。
また、その他外交関係については、「アメリカ、日本、ヨーロッパにおける友好的な民主国家の関係を継続して深め、全ての面において協力を進めていく」との意向を示した。
このほか就任式では、国軍連合楽儀隊によるパフォーマンスや台湾の歴史を振り返るような舞踊劇、さらに「ひまわり学運」の際にも話題となった若手台湾バンド「滅火器」も登場し、「向前行」や「島嶼天光」を披露した。
なお、蔡総統は演説の中で、島嶼天光の歌詞に含まれる「現在是彼一工 勇敢的台灣人(今がその時だ、勇敢な台湾人よ)」という言葉を引用し、「この言葉は私を感動させた」と話す場面もあった。
このように、蔡総統は若い世代を重要視しており、演説内では若者の低所得問題についても強調した。蔡総統は、「若者の未来は政府の責任だ。(低所得の問題において)私は総統の任期内に一步ずつ,根本的な国家の問題を解決していく。すぐには全ての若者の所得を上げる事は出来ないが、新政府はすぐに行動に移していく。一つの国家の若者に未来がなければ、この国家の未来もないのだ。若者の苦境突破を手助けし、より良い国家を次の世代へ引き継ぐ。これは新政府の重大な責任だ」と語った。
同演説を聴いた23歳の台湾人女性は「蔡総統率いる新政府の準備は整っていると感じている。新政府には経済や貿易、教育など様々な分野における国家の発展に向けて、全力を尽くしてほしい」と話し、より良い台湾国家への期待を示した。
蔡総統就任に寄せられた各国の声
蔡総統の就任については各国から様々な声が寄せられた。日本側としては、菅官房長官が20日の記者会見で、「台湾はわが国にとって基本的な価値観を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する重要なパートナーであり。大切な友人だ。政府としては、台湾との関係を非政府間の実務関係として維持していくとの立場を踏まえ、日台間の協力と交流のさらなる深化を図っていく考えだ」と述べたと日本メディアが報じている。
また、両岸関係については、「両岸の関係は、当事者間の直接対話によって平和裏に解決されること、また、地域の平和と安定に寄与していくことを期待したい。日中関係についての影響は全くないと思う」(菅官房長官)としたという。
さらに、岸田外務大臣も同日の閣議後、「蔡英文氏の総統就任を歓迎する。台湾はわが国にとって、基本的な価値を共有し、緊密な経済関係や人的往来を有する重要なパートナーであり、大切な友人だ。日本と台湾の協力と交流のさらなる深化を図り、さまざまな課題に取り組んでいきたい」と述べた。
なお、アメリカは在台湾窓口機関である米国在台湾協会(AIT)が同日、声明で「米台双方の人々の結びつきのさらなる強化に向け、台湾のあらゆる政党や市民団体とともに、新当局と協力するのを楽しみにしている」と表明し、蔡英文氏の台湾総統就任に祝意を示した。
一方の中国大陸からは、中国国務院(政府)台湾事務弁公室が同日、蔡総統の就任演説について、「1992年コンセンサス」を、明確に認めておらず、不完全な答案だと指摘し、蔡政権に対して「実際の行動で明確に回答するべきだ」と要求する談話を発表している。さらに習近平指導部は演説に不満を示しつつも、談話では「(蔡氏は)1992年コンセンサスを認識していると述べた」と評価している。
蔡政権がどのように台湾を改革していくのか、今後も国内及び国外から高い関心が寄せられると見られる。