巷を賑わしていた台湾の「鴻海(ホンハイ)精密工業(郭台銘《テリー・ゴウ》董事長、以下:鴻海)」と「シャープ(高橋興三社長)」は4月2日、買収契約に正式調印した。鴻海によるシャープ買収契約計画は、2012年から郭董事長が異常なまでに力を入れ、熱望していた事だ。台湾ではこの関係を恋愛に見立て、「鴻夏恋(ホンシャーリエン、シャープへの恋)」と称されているほどだった。郭董事長がこれほどまでにシャープと手を組みたかった理由の一つは、シャープが世界で初めて量産化に成功した、人の手によって創り出した透明 な酸化物半導体「IGZO」技術の取得であると言えるだろう。
買収契約の調印式を終えた郭会長は2日、台湾メディアの取材に対し、IGZO液晶の生産拡大計画について詳しく説明した。
郭董事長は最初に、「シャープが持つIGZO技術は、テレビやスマートフォンの高画質と薄型化を実現できる次世代の表示装置『有機EL』に負けていないが、経営難に陥り資金が不足しているシャープでは、IGZO技術を携帯電話やテレビなどの商品に運用することが出来なかった」と問題点を指摘。その上で、鴻海が投資を行う事により生産量を増加させ、IGZO技術を兼ね備える商品を増やして行きたいと意気込んだ。また、郭董事長は将来、IGZO技術を8K液晶パネルに運用し、2020年の東京オリンピックの際に市場の主力になることを目指している。
郭董事長が語った有機ELに勝るIGZO強みは、省エネ、色彩が鮮明である、無機で劣化しにくい、IGZOは現在台湾のサプライヤーが所有している設備とほぼ同じ設備を使用するので全て更新する必要がないといった点だ。さらに「IGZOと有機LEは現在五分五分である。私がシャープに加わったあとは、IGZOの勝る点が多くなるだろう。しかし強調したいのは、有機LEを作らなくなるわけではないという事だ。私たちは3年の時間をかけてシャープを理解してきた。パネル事業として、100パーセント手を取り合い、必ず世界一になる」と自信をみせた。
郭董事長から見たシャープとは
郭董事長はシャープに対して、「シャープは100種類以上の優れた点を持っている上、多くの優れた技術者もいる。ただ、商品化の術が無かっただけだ。私はシャープの商品化を手助けしたい。鴻海はシャープのスピーディーな商品化を助ける事ができる。私は彼らが安価で優秀な商品を大量生産出来るように支援する」と協力体制を話した。
郭董事長がシャープで見たのは、倒産しそうなときでも自分の仕事を放棄しなかった社員たちだったという。「日本人は私に『何人リストラするのか?』と聞くが、わたしは社員をリストラするとは言っていない。シャープの最大の問題は上部のリーダーシップの問題だ」と指摘した。
さらに、約3500億円の負債を抱えるシャープだが、これについては、「累積されたシャープの負債は、1つの良い対策で処理し、資金を注ぎ込む」と述べた上で、「シャープは多くの負債はあるものの、白物家電などの沢山の資産も持っている。多くの方にシャープの買収額が高いと言われるが、それは彼らがシャープの持っている優れた物を知らないからだろう。見るべきものは価格ではなく、その物が持つ価値だ」とした。
このように、郭董事長はシャープの白物家電を高く評価しており、「倒産直前のシャープだったが、日本の白物家電、黒物家電においても1位で、例えば空気清浄機のプラズマクラスターは日本国内で半分以上のシェアを占めている」と語る。また、なぜシャープ商品が売れなくなったかについて、倒産を恐れ、購入後に修理をする人がいなくなると思うからであるとし、「私がシャープと手を組んだ後は、彼らが現在達成する事が出来ない日本市場における目標の70%を2年のうちに達成してみせる」と意欲みせた。
高橋社長も記者会見の際、「鴻海と共に創り上げる新たな戦略的提携と、それによる販売路の拡大、新たなサプライチェーンや製造能力の活用など、グローバルな競争力が強化される。今後もシャープのブランドを維持し、世界中の顧客に向けて引き続き新しい価値を提供し続けていく。シャープ自らが脱皮し、これから10年、100年に渡りなければならない会社として新しい価値を提供していく」と述べ、鴻海との協力体制に期待を示した。
今回の買収契約の一連は、日本の一部メディアでは鴻海があたかも悪者であるように報道されることがあり、日本に誤解を与えている。郭董事長は2日の記者会見で、時間をかけて鴻海の対応や熱い想いを説明し、日本側の鴻海に対する理解を深めた。
今後、鴻海がどのようにシャープを立て直していくのか、日台両サイドの目線から注目していきたい。
(2016/05/02)