福岡でバス、トラック、ダンプ等の大型車両の整備・販売を行う博洋自動車(吉田佳史社長)が、台湾のバス製造会社「ジャーマモーター(Jia Ma Motor Co., Ltd. 、呂文端社長)」と、大型観光バスの日本輸入に関する総括的な代理業務契約を結んだ事を、福岡商工会議所内の台湾貿易センター福岡事務所で17日に発表した。
ジャーマモーターはイタリア IVECO BUSにも車両を供給しており、その技術力は高く評価されているが、今回の博洋自動車との契約に基づき、右ハンドル仕様の製造ラインを設け、2020年東京オリンピックに向けて今後ますますインバウンド客が増加し、大型観光バスの需要が見込まれる日本市場の開拓を目指す。
膨大な需要をバックに同一規格で大量に製造される乗用車と違って、仕様が多岐にわたり作業も複雑なバスの製造は注文住宅の建築に例えられるほどであり、厳しい経営環境の中で合従連衡を繰り返した結果、現在日本における実質的なメーカーは「三菱ふそうトラック・バスの子会社」と、日野自動車といすゞ自動車の合弁会社である「ジェイ・バス」の2社だけになっている。
そのため、最近のインバウンド客の増加や国交省の指導によるバス運行会社の経営改善傾向に伴ってメーカーへの発注が増えても、生産台数を増やすのは容易ではなく、2015年時点における大型バスの1日当たりの生産台数は三菱ふそうで10台程度、ジェイ・バスも20台程度にすぎない。発注から引渡しまでの期間も1年近くかかるのが普通で、両社ともこの短縮に全力を傾注しているものの、需要の増大には追い付いていない。
このような状況の中で、整備点検のお客様であるバスの運行会社から「オリジナリティをもった大型バスを作って欲しい」との強い要望を受けた博洋自動車の吉田社長が完成車の輸入を考え、世界中のメーカーに当たった結果、行きついた先が台湾のジャーマモーターだったという。
吉田社長によれば、呂社長のバス作りに掛ける情熱と併せて、ジャーマモーターの現場で見た高い技術力、モノ作りに対する職人魂を持った社員の熱意、顧客の細かい要望への対応も厭わない柔軟性が契約締結への背中を押したという。一品生産に近いオリジナリティや応用力を要求される製造にもかかわらず納期も6ヶ月程度と短く、価格も国内生産の2割は安い見込みのため、6月から輸入を開始し、2018年には60台の販売を目指すという。
販売価格は1台3,300万円を標準とし、全国の運輸局認定の第一種整備工場を販売窓口をとして、販売からメンテナンスまで一貫して対応出来るネットワーク構築を進めつつある。
一方、呂社長は今回の契約をきっかけにシャーシー、ボディ、内装品等数万点の部品のすべてを自社で調達・組立てる完成品メーカー(コーチビルダー)になること。日本への輸出ビジネスを確立すること。グローバルメーカーとなってオーストラリアを始めとする右ハンドルの国々へのビジネスにつなげることなどに期待をにじませた。
観光バス不足が原因となって外国の観光客が訪日を断念せざるを得なかった2013年と14年の「事件」は記憶に新しいが、それが台湾からの団体客であったことが今回のバス輸入契約との不思議な縁を感じさせる。2013年には北海道で、14年には立山アルペンルートで台湾のツアー客の一部が観光バス不足のため、訪日を断念せざるを得なかったものだ。これは訪日外国人客が初の1,000万人超えとなったころであるが、日台間の窓口である亜東関係協会から日本台湾交流協会を通じて観光バスの供給輸送力増強と手配の円滑化・正常化について善処を求める働きかけがされるなどの騒ぎとなった。
2016年の訪日外国人客の総数は2,400万人となり、今後も増えることを考えればバス不足はますます慢性化し、更に深刻な事態になるものと誰もが考えているにも拘らず、過去の企業再編の経緯や予測できない世界の政治・経済情勢の行方を考えた時、国内メーカーには増産に踏み切るだけの投資意欲が盛り上がらないことが報じられている。
今回のジャーマモーターと博洋自動車の契約を仲介した台湾貿易センター福岡事務所の林淑恵所長は控えめな表情で「台湾からの旅行者は自国製のバスで日本国内を観光することを誇りに思うだろうし、私自身も街中で台湾製のバスを見かけられるようになれば大変嬉しい」と言うが、今後の日本の観光旅行は、案外台湾製のバスという屋台骨によって支えられることになるのかも知れない。