九州大学(久保千春総長)は、1月7日、8日の2日間、同大学西新プラザにて、「台湾事情:台湾の先駆者(フロントランナー)から話を聞く」と題する公開講座を開催した。
これは日本で3番目の台湾研究拠点として、台湾教育部(文部科学省に相当)から3年間の助成金を得て開設された「台湾スタディーズ・プロジェクト」の一環として実施されたもので、初日の7日には、台湾に関する報道・解説の第一人者である野嶋 剛氏(元朝日新聞台北支局長)と台湾の世界的自転車メーカー「ジャイアント」の元最高経営責任者(CEO)羅祥安氏が、翌8日には野嶋氏とエッセイストの一青妙(ひとと たえ)氏が講師として登壇した。
二日間とも各氏の講演の後、野嶋氏と羅氏、野嶋氏と一青氏が対談する形で進行され、学生約40人を含む90人の聴衆が聞き入った。
講座の開始に先立って、「台湾スタディーズ・プロジェクト」の運営者の一人である前原志保・学術研究員から、このプログラムは九州大学の「21世紀プログラム」と共同で企画する講義シリーズであり、マスコミ関係者、企業家、政府、NGO関係者など幅広い分野のスペシャリスト、専門家を招いて行うものであるとの説明があった。
説明の中で「21世紀プログラム」は特定の学部・学科に所属せず、幅広い視野で、現代社会における問題や課題を発見し、その解決能力を探る “専門性の高いゼネラリスト”を養成することを目標としていること。「台湾スタディーズ・プロジェクト」は台湾と長年深い縁がありながら研究が手薄だった九州に開設された台湾研究講座であり、全学に向けて台湾に関連する授業の提供、学生間、研究者間の交流促進のためのプラットフォームを構築するとともに、一般に向けて台湾講座を公開するものであることが紹介された。
講座初日のトップバッターに立った野嶋氏は、ブリヂストンなど日本の自転車メーカーを抜いて世界の完成車の40%のシェアを占めるに至ったジャイアントや家電のシャープを買収した鴻海(ホンハイ)のいずれもが部品サプライヤー、OEMメーカー、自社ブランド確立企業へと発展したことに触れ、台湾と日本の逆転現象の根源を考え、台湾に学ぶ必要性があると説いた。
次いで羅祥安氏が中国語でなく日本語で講演し始めた時には、聴衆は意外性に驚くとともに、日本市場に対する並々ならぬ意欲を感じ取った。羅氏はジャイアントの概要を説明した後、同社の発展が次の8つのキーワードにあることを説明した。
<キーワード1>オリジナルブランドを確立できたこと。
<キーワード2>グローバル経営を目指したこと。
<キーワード3>香港でなく、最初から中国本土に進出したこと。
<キーワード4>社内に「チームA」を結成し、高級化を目指しながらトヨタの生産管理方式を導入してコスト削減を図ったこと。
<キーワード5>ツール・ド・フランスなど、世界のトップレースに参加したこと。
<キーワード6>スポーツ用女性ブランド車を開発したこと。
<キーワード7>「環島」などでサイクリングワールドを構築できたこと。
<キーワード8>ホンダの本田宗一郎、藤沢武夫に見習い、経営者の引退時期を見誤らなかったこと。
である。
このうち特に<キーワード6>のスポーツ用女性ブランド車の開発 については、性能とともに自転車自体の「美」を求めることや、店員の説明、検討、再来店、納得しての購入、ヘルメットやウエアなどを求めてリピーター化するなど、男性とは違う購買行動が入念に研究されていることが伝えられ、聴衆を感心させた。
また、<キーワード7>のサイクリングワールド構築 については、9泊ないし10泊で台湾を一周(環島)するためのサポート体制を担う、旅行会社(ジャイアントアドベンチャー)まで作ったこと。サイクリングを中心に健康、エコ、新生活スタイル、家族のだんらん、プラス思考などの輪をつなげ、自転車利用の優位性を認識させることに成功したことが聴衆の共感を呼んだ。
講演に続いて行われた羅祥安氏と野嶋 剛氏との対談では、野嶋氏も完走した「環島」で見られる美しい景色やグルメな食べ物の話から始まり、坂道の苦しさとそれを乗り越えた後の達成感などとともに「環島行った?」と普通に語られるまでになった台湾のサイクリングワールドについて話が弾んだ。
学生の一人から質問された「日本でサイクリングワールドを構築する場合のパートナー作り」については、羅氏は次のように答えた。
日本でも既に愛媛県・今治から広島県・尾道まで約70kmの「しまなみ海道サイクリング」や琵琶湖を一周する「びわいちサイクリング」(北湖一周なら約160km。南湖まで回ると約200km)が行われており、ジャイアントも協力している。「しまなみ海道サイクリング」を延長して四国一周のサイクリングコース「四国環島」が出来ればいいと考えている。去年7月に自分自身が四国を一周し、各県の知事さんと話をした時には、自転車が安全に走ることができる道路の建設など難しい問題も出たが、自治体の熱意で日本流のサイクリングワールドが早く構築できることを期待したい。
初日の最後に、フロアから挨拶した台北駐福岡経済文化辦事處の戎義俊處長は、台湾の「環島」には日本からも大勢の人々が参加しており、日台友好に果たした役割は大きい。その大きい部分をジャイアント社が担ってきたことは評価されるところである。今後も大いに日本からの観光客が「環島」に参加し、健康、プラス思考、家族だんらんなどを果たしてもらうとともに、現在ある470万人の訪日客と290万人の訪台客の観光客差を埋める一助となることを期待すると締めくくった。