書評「日本精神~日台を結ぶ目に見えない絆~」

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通算22年間を日本で過ごし、今年7月に外交官生活を終える戎義俊・台北駐福岡経済文化辦事處處長(台湾総領事)が、台湾と日本の関係を具体的な例を挙げながら掘り下げ、今後の日本に対する期待を綴った書である。

中華民国総統・副総統の日本語通訳を務め、「親日家」というより「愛日家」として知られる筆者は、日本の50年間に及ぶ台湾統治も知らず、戦後の東アジアの変転に深く係ってきた台湾に関心も払ってこなかった多くの日本人に歯がゆい思いをしながら、福岡着任後すさまじい行動力で九州・山口を駆けめぐり、日台間の交流を築き・深めるための努力を重ねてきた。2013年5月からの5年間に福岡から九州・山口の7県を訪問した回数が600回に迫り、公用車の走行距離が12万キロに達したことがその並々ならぬ熱意を示している。

各地の人々と膝を交えて話をすることによって、それまで知られていなかった市井の日本人と台湾との関係を掘り起こし、世に伝えることもしてきた。台中で教師をしていた熊本県玉名市の高木波恵氏と台湾に住む教え子とのテレビ電話による80年ぶりの再会に立ち会うこともできたし、大甲の聖人として慕われ、神として祀られている同県益城町出身の志賀哲太郎氏の業績に光を当てることもできた。また、熱帯の風土に合うように改良・開発した「蓬莱米」で台湾のみならず東南アジアやインドの飢餓を救った福岡県大野城市出身の末永仁氏の功績を広く知ってもらうこともできた。

このような過去のつながりに光を当てる一方で、筆者は九州国立博物館における台北国立故宮博物院展の開催、九州大学における台湾研究講座の開設、日本の高校生の台湾への修学旅行の定着・拡大など、着々と将来の日台関係の充実・強化に向けた手を打ってきたことが記されている。

そして、いま日台両国は、人的往来が年間約650万人に達し、台湾の人々が一番行ってみたい国として日本を挙げ、ゴールデンウイークや何末年始の日本人の旅行先の一位が台湾である、という最も親密な関係にあり、今後もこの関係が継続・発展すると考えられているが、筆者はこの背景に日本が欧米列強の植民地政策と違う統治方法をとり、インフラを整備し、教育を重視する政策を取ったことを上げている。

日本統治下の台湾では、知識の伝授とともに、嘘をつかない、不正なことはしない、自分の失敗を他人のせいにしない、自分のすべきことに最善を尽くす、といった武士道精神が教えられたが、これが「日本精神」として受け入れられ、戦後の排日教育が浸透する中においても家庭で「口耳相傳」として伝えられたという。

この結果、「遠い祖先を同じにしたような懐かしさ」を感じている多くの台湾人と、台湾で生まれ育ち日本に引き揚げてきた「湾生」や、台湾人の行動に触発された若い日本人との間で「目に見えない絆」が形成されているのではないか、と筆者は言う。

しかし、本書の行間からは「それにしても日本人があまりにも台湾のことを知らなさすぎる。何とかしなくては・・・」という筆者の切々とした気持ちが伝わってくる。

日本人が胸の痛みを感じながら読むべき1冊であろう。

全230ページが分かりやすい文章で書かれている。税別1,600円。海鳥社(電話092-272-0120)

著書を手にする戎義俊氏