このほど6月8日に出版された「タイワニーズ 故郷喪失者の物語」の刊行を記念し、同書著者の野嶋剛氏(ジャーナリスト)と同書に登場する温又柔さん(作家)は6月17日、台湾文化センターで行われたトークイベントに出席し、同書にまつわるエピソード満載のトークを繰り広げた。
同書は、台湾をルーツに持ち、日本で暮らす在日台湾人(=タイワニーズ)の肖像を描き、一冊にまとめた本である。野嶋氏はイベントの序盤、「単にタイワニーズの人生を伝えたかったわけではない。人間を通して台湾を描きたかった」と主張。「国とは何か、国籍とは何か、民族とは何か、これこそが同書を通じてアピールしたい部分だ」と同書執筆の目的について語った。さらに、台湾について、「台湾は多様で複雑でややこしい。だから面白いんだ」など、熱いトークで来場した約120人の観客を沸かせた。
なお、温さんは、「おかっぱの喧嘩上等娘、排除と同化に抗する」というタイトルで同書に登場したタイワニーズの一人。温さんは、「私なんかが登場して良いのか」と謙遜する事もあったそうだが、誰かに「あなたは何人ですか?」と問われると、必ずはぐらかしている事に触れ、「野嶋さんは、台湾人のアイデンティティについて、鋭く切り込むジャーナリストであるけど、それぞれの同書に出てくるタイワニーズたちは、(野嶋さんの質問に対し)明確な答えをすぐには出さないんです。そう考えると、私も同じ系譜なのかも」とし、自身が台湾人である事の葛藤などについても話した。一方、温さんのストーリーについて野嶋氏は「上手く書けたと思う。100点に近い」と自己評価する場面もあった。
野嶋氏は以前、朝日新聞台北支局長を務めていた時に台湾人アイデンティティに興味を持ち、その頃より「台湾人を通じて台湾を描きたい」と色々アイディアを浮かばせていたという。そのため、今回念願の出版という事で同書は「思い入れの作品」だという。
なお、イベントの途中には、温さんが執筆した台湾アイデンティティに関する著書「台湾生まれ日本語育ち」が2015年に出版された事に触れ、野嶋氏は「今だから言えるけど、あの本が出版された時は、『ちくしょー』って思った」と話すなど、会場が笑いの渦に包まれる場面も多く、心温まるトークイベントとなった。