九州大学の第二回「台湾事情」講座で片倉佳史氏が講演

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九州大学(久保千春総長)は、12月15日、16日の2日間、同大学伊都キャンパスで、「台湾事情:台湾を知り、日本を知る」と題する公開講座を開催した。これは九州大学の「21世紀プログラム」と、台湾教育部の支援を受けて日本で3番目に開設された台湾研究講座「台湾スタディーズ・プロジェクト」が共同で企画する集中講義シリーズで、今年1月に次いで二回目の開催となる。講師にはマスコミ、起業家、政府、NGOなど幅広い分野のスペシャリスト、専門家を招いているが、今回は初日に台湾在住作家の片倉佳史・真理氏が、翌日には台湾中央研究院・近代史研究所副研究院の林泉中氏が壇上に立ち、約60人の学生を含む120人の聴衆が聞き入った。

講座の開始に先立って、「台湾スタディーズ・プロジェクト」の運営者の一人である前原志保・特任助教から、「21世紀プログラム」は特定の学部・学科に所属せず、幅広い視野で、現代社会における問題や課題を発見し、その解決能力を探る “専門性の高いゼネラリスト”を養成することを目標としていること。「台湾スタディーズ・プロジェクト」は台湾と長年深い縁がありながら研究が手薄だった九州に開設された台湾研究講座であり、全学に向けて台湾に関連する授業の提供、学生間、研究者間の交流促進のためのプラットフォームを構築する一方で、一般社会に向けて情報発信するものであることが紹介された。

初日のトップバッターに立った片倉佳史氏は、台湾の社会経済的な状況、人々の心情、それを生んだ歴史的背景、日本とのつながり、台湾を学んで日本を考えるためのテクニックなどについて、市販の本や新聞・雑誌には書かれていないエピソードを混えて話し、受講者に台湾を再認識させ、共鳴や感動を呼んだ。

台湾事情を丁寧に説明する片倉氏

片倉氏が最初に挙げたのは「台湾は全てが現在進行形である」という認識である。台湾では政治、経済、社会が日本はもとより世界の中でも格段に速いスピードで変化していると言う。民主化後、国民党、民進党の間で2期8年ごとに政権が入れ替わってきた。今年の統一地方選挙でも、民意は大きく動いた。この原因の一つと考えられる中国からの経済的抑圧により、特に訪台観光客数はピークから約半分に落ち込んだ。

次の特徴は「多様性」である。例えば、台湾では、台湾語、北京語、客家語、少数民族の諸言語、さらに、英語や日本語など、多くの言語が行き交う。だから1つの言葉しか話せない人の方がむしろ珍しい。そして、会話をして初めて相手の属性や出身地が分かる場合も多い。学生諸君が台湾を旅するときには、遠慮せずに声をかけ、自分ができる言葉で話かけてみるといい。困ったり、迷ったりした時は積極的に周囲の人に声をかけてみよう。

言葉と同様に考え方も多様であるが、共通しているのは、冷静で客観的にモノを考えるところであろう。台湾人自身が台湾を治めた歴史はわずかにここ20年から30年しかなく、外来政権が台湾を統治してきた時代が長い。オランダ人、漢民族、満州族、日本人などの外来勢力である。そして、外来人たちがどのように振る舞い、接してくるのかをじっと見つめてきたという歴史がある。従って、どんなことでも立ち止まり、人の意見を聞き、自分で考え、判断する、という冷静で客観的な思考方法がしみ込んでいる。

「台湾人は親日的」と言われている。これはもちろん日本人にとっては嬉しい事ではあるが、日台関係をこれだけで語るべきではない。台湾人は日本の良いところも悪い所も知っている。日本へ来る観光客は、もっと突っ込んで日本の歴史や日本人の考えを知りたいと思っている。台湾からは年間500万人もの人が日本に来ている。台湾の総人口2,358万人の4.7人に1人である。生まれたばかりの嬰児や体力的に外国に行けないお年寄りを除くとほぼ3人に1人が日本に来ているとも言われている。これは異常な数字だ。また2年以内に57%の人が日本に行きたいと答えたアンケート調査もある。この人達の多くが歴史を含めて日本のことをもっと知りたいと言っている。

訪日台湾人の年別推移

台湾人の心情・気質には日本人のそれと似ているところがある。台湾人は演歌も好きだ。「花街の母」や「悲しい酒」を聞いて涙を流す台湾人は少なくない。李登輝元総統は「日本人は形のないもの、色のないものを共有できる」と言うが、この気質が台湾人にもあるのかも知れない。

嘉南大圳の父と言われた八田與一技師の銅像を作る話が出たとき、本人は最初、固辞したが、断りきれなくなり「それでは、上から人を見下ろすような像はやめてほしい」と言ったという。そして、腰掛けて湖を見ながら考えごとをしている座像が誕生した。

また、東日本大震災の時、当人の死後になって初めて10億円の義援金提供が知られたエバーグリーングループの張栄発総裁の行為にも注目したい。彼は小学校の先生から「本当の善は隠れてするもの」と学んだという。これは彼の心の内側に入り込み、自身の精神となった「日本」を見るような気がする。

東日本大震災で台湾から253億円もの義援金が送られたことに対し、台湾の人々にお礼を言うと、その反応には3つのパターンがあった。一つは、義援金を送っているのは自分だけではないので困って返事ができない人、二つ目は「困っている人がいれば助けるのは当り前」と答える人(実際に四川省地震、ロサンゼルス地震の際にも台湾から義援金が送られている)、三つ目は「恩返し」という人。これは1999年の台湾大地震に対して日本が最初にレスキュー隊を送りこみ、適切な処置をしてくれたことにちなむ。

また、日本が台湾を統治するにあたって、歴代総督や後藤新平民政長官など、優秀な人材を送ったことが統治を成功させ、いまの親日感情にも繋がっているという主張がある。これについては、台湾は国土の一部であり、新領土の経営が成功していることを欧米列強にアピールする必要性があったことを忘れてはならない。日本史も台湾史も、世界の歴史の中で考えるべきと指摘した。

最後に片倉氏は学生受講者に対して「台湾を学んで日本を考えるテクニック」として、次のアドバイスを与えて講演を締めくくった。

①どんなものでもじっくり「見つめる」こと。②自分自身でいろいろ想像して「仮説」を立てること。③立てた仮説を「実証」すること。④これらの行動を通じて考えたことを記録すること(「私の台湾ノート」を作ること)。⑤そして感じたこと、学んだこと、感動したことを「表現」すること。

これを繰り返していけば、台湾を学ぶことは間違いなく面白くなっていくはず。そして、その面白さを周囲に伝えていってほしい!

 

 

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