在福岡台湾総領事館(陳忠正総領事)と九州在住の台湾出身医師等でつくる西日本学友会(庄野庸雄会長)が、5月16日と18日に九州大学病院、福岡県医師会、福岡県庁のそれぞれに、マスク各1万枚と体温計・ゴーグル(アイガード)などを寄贈した。贈呈式には、日ごろから日台交流に尽力している地元選出の鬼木 誠衆議院議員と海外華僑の世話役として九州・山口地区の僑務委員を務める海澤洲氏も立ち合った。
マスクについては、4月に台湾政府から日本政府に200万枚の寄贈があったが、今回のものはこれとは別に日本各地の総領事館を通じて地域の自治体、医療機関等に贈られるもので、合計70万枚が用意されている。
5月16日にマスク1万枚とゴーグル500個を受け取った九州大学病院の赤司浩一病院長は「院内でも4月中旬からマスクとゴーグルなどが不足し始めていた。いまは何とか持ちこたえているものの、第2波の感染に備えてストック不足を心配していたところなので、大変有り難い。台湾のコロナウイルス対応は世界の模範とすべきところであり、今回の寄贈には身が引き締まる思いだ。こうした支援を頂けるのは、台湾と日本の日頃の交流の賜物だ。今後も両者が助け合い、コロナ禍を乗り越えていきたい」と述べた。
鬼木 誠氏は「4月中旬に、福岡県としてマスク対策本部を立ち上げ、医療現場における血の滲むような努力をFacebookに載せたところ、陳総領事からマスクを取り寄せましょうとの申し出があり、今回の寄贈につながった。その時は九州大学病院をはじめ多くの医療施設で『マスクを洗い直して使わなければ』との声も出ていた。現在マスクは出回っているが、今回の寄贈の有り難さを忘れてはならない。緊急事態が解除され、普通に生活できるのは、医療資源のストックがあるからだ。これからも日台交流を深め、協力し合っていきたい」と困窮時を振り返りながら謝意を述べた。
また、陳忠正総領事は「日本と台湾は、他のどの国よりも固い友情で結ばれているパートナーである。このマスクとゴーグルが少しでも新型コロナウィルスと戦っている日本の役に立てれば幸いだ。世界が1日でも早くこの感染症を克服し、新型コロナウィルスが収束することを願ってやまない」と挨拶した。
贈呈式後に行われた質疑応答において、赤司病院長はマスクの効用について「ウイルスはマスクの目の粗さと比較にならないほど小さいため、簡単にマスクをすり抜けてしまうのではないかという議論は当たらない。何故なら、ウイルスは唾液などの飛沫に付着して空中を飛ぶことが多いからだ。従って飛沫をブロックすればよく、マスクをした人同士の会話などで感染が起きた例は報告されていない。そこがこれまでマスクをすることに馴れていない欧米人までがマスクをするようになった理由であろう」と述べ、手洗いとマスクの使用を強く勧めた。
また、福岡県医師会(松田峻一良会長)へは、陳総領事の「県民の健康と安心を守るため、医療の最前線で未知のウィルスに立ち向かっている医療関係者各位に心から敬意を表します」との言葉とともに、マスク1万枚と西日本学友会からの体温計150本が贈呈された。
松田会長はコロナウイルスについて「医療の現場にいるものとして、戦う相手の正体が分からなかったことが1番の悩みだった。やがて少しづつ感染力や毒性の強さなどが分かってきたが、今度は戦うための道具がなく、武器なしで戦うことの難しさに直面した。そんな中で自分の専門が耳鼻咽喉科であるため、風邪気味で喉が痛いと訴える通常の患者も診なければならず、焦ることもあった」と当時の苦しかった胸の内を話した。
また「いま福岡はうまくコントロール出来ているが、決定的な治療薬が開発・普及するまでにはまだ時間がかかる。その間に第2波、第3波の感染拡大が起こり得ると考えなければならないが、今回寄贈を受けたマスクや体温計などのストックがあれば『心配するな』と言える。また医療従事者や市民がこれまで得た経験を生かして対応すれば、必ず道は開けると考えている」と力強く語った。
更に18日には福岡県庁に対しマスク1万枚が寄贈され、出席した小川 洋知事は「東日本大震災の時もそうだったが、それ以後も何かと台湾の人々には親切にしてもらっている。困った時の友こそ真の友だ。今回のこのマスクを台湾の人々の暖かい気持ちを添えて社会福祉関係施設に渡したい。本当に有り難い」と謝意を述べた。
また、小川知事は「台湾はいち早くコロナにウイルスに対応し、コントロールに成功した。日本では4月7日に緊急事態宣言が出され、福岡県もそこに含まれたが、5月14日に解除された。これは県民、事業者、医療関係者の尽力によるものである。しかしコロナとの戦いはこれからも長く続くだろう。今後は①再発生・再拡大の防止、②医療提供体制の確保、③社会経済活動のレベル向上、の3つをどう上手くコントロールしながらコロナと向き合うかというフェーズに入ることになり、県民一人一人の意識と行動が問われる。その中でマスク1万枚の贈呈を受けたことは大変有り難いことである。本来なら素晴らしい季節の中で台湾と福岡県の様々な交流が進んでいたであろうはずだが、それが出来ないことは残念だ。コロナが収束した暁には台湾の皆さんと新しい交流をして、いままで以上の深い関係を続けたい。そのためにぜひ今日ご出席の皆様のお力をお借りしたい」と新しい交流への期待を述べた。