埼玉県物産観光協会主催の「新商品AWARD2020」でこのほど、埼玉県内で台湾料理店を経営した経験を持つ料理人の蘭新恵(らん・しんえい)さん55歳(同県狭山市)考案の「味噌だれ」が金賞を受賞した。蘭さんは台湾出身で、2年前に日本国籍を取得。老舗企業が多々エントリーするなか、受賞者で唯一の海外出身者となった。
受賞した商品は、同県毛呂山町の特産品「桂木ゆず」などを食材に用いた「桂木ゆず旨辛味噌だれ」。同町内で開いていた台湾料理居酒屋で、焼き鳥や野菜スティックに添える調味料として出していたもの。市販品の味に納得できなかった蘭さんが、白みそと麹みそをベースに、細かく刻んだ桂木ゆずや豆板醤(トウバンジャン)、ニンニクを加えるなどの工夫を凝らして自作した。
日本の特産品のゆずと台湾料理の代表的な食材である豆板醤やニンニクと使用していることなどから、蘭さんは「日本と台湾のハーフの味」と胸を張る。辛みとゆずの清涼感が絶妙にマッチした味わいは店の常連客に好評で、「絶対に売れる」と背中を押されて商品化に挑戦した。しかし、商品開発の経験がない蘭さんと取引きする業者や工場がなかなか見つからず「複数の工場に何度もメールを送りました」(蘭さん)という。
その後、毛呂山町内の工場が製造を引き受けてくれる事が決まり、店の味を忠実に再現するために約半年間の試行錯誤を重ねた。商品化は2020年12月。その直後より本格販売を開始し、価格は100グラム入り1袋680円(税込)とした。現在は埼玉県内の物産店やインターネット通販で扱っている。今後は海外からの旅行客向けに空港で売る事も視野に入れている。
蘭さんは台湾北東部に位置する台湾宜蘭県生まれ。高校時代に生け花クラブに所属したことをきっかけに、日本文化に親しみを覚え、平成元年に来日した。料理人だった祖母の影響を受け、飲食店勤務などを経た後に毛呂山町に店を開いた。「日本は豊かな自然が残っており台湾と似ている部分が多い。食を通じて日本と台湾の懸け橋になりたい」と、受賞を喜ぶ言葉に料理人の自負心が滲んでいた。