地方選観察 台湾人ならではの地方選の実態

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11月26日に行われた「2022年台湾地方選」は最大野党・国民党の勝利で収まった。

11月26日に行われた「2022年台湾地方選」では、2018年に引き続き最大野党・国民党の勝利で収まった。与党・民進党の勢力圏が南部に縮まり、党主席を務めていた蔡英文総統が責任を取って主席を辞任した。民進党内では早くも蔡氏の後継者を巡る争いが始まる様相だ。

大敗を受け、蔡英文総統は同日の夜に党首を辞任した(写真提供:中央社)

日本の報道機関は、選挙の結果直後から台湾選挙に関する記事を次々に発信し「選挙の結果は台湾人が中国の圧力に影響されたのではないか」など、様々な議論が交わされた。しかし台湾の地方選について「台湾人ならではの実態」がある。決して台湾人が対中国政策を緩和させるわけではない。

事実1 地方選の結果は地方の実力者が決まる

日本では政治家とみなされる公職を、結果的に親族が継承する世襲と見られるケースがある。一番有名なのは安倍晋三元総理の外祖父にあたる岸信介が、自民党総裁、外務大臣、総理大臣を歴任し、その政治遺産が長男・岸信和と娘婿・安倍晋太郎を経て、孫の安倍晋三と岸信夫に継承された経緯だ。

張麗善・現雲林県長が代表する「雲林張家」は長年にわたって地方選を制している

台湾でも同じような状況がある。彼らには日本の世襲制のように中央政府の官職に担ぐほどの実力が無くても、地方選ではかなりの影響力を持っている。例えば台湾の中南部に位置する雲林県では「雲林張家」と呼ばれる一族が、この20年間地方選を制している。族長の張麗善・現雲林県長は国民党籍を持ちながら、2005年に国民党を脱党して自ら立法委員選に出ても1位で選出された実績を残した。唯一対抗できる家族は民進党寄りの「雲林蘇家」で、両家は雲林県の地方選をめぐって争いを続けている。

蘇治芬・立法委員が代表する「雲林蘇家」は、雲林において唯一張家と対抗できる一族と言われる(蘇治芬委員のSNSから)

地方のいわゆる「名門」は、民進党あるいは国民党の党籍を持っていても、地方選において政党と個人の優位関係が逆転され、名門の協力を無くした場合、選挙に負けるまで至る。なぜなら、地方の実力者と住民の接触が多く、長年にわたって議会を通じて住民の望みに応えており、生活面での満足度も向上させているからだ。こうした背景で、住民の投票意向は政党でなく候補者を決めるのだ。

事実2 若い世代が民進党から離れる

2014年に柯文哲氏が国民党を下した原因は、市民が国民党の門閥政治に嫌がると見られる(写真提供:中央社)

若い台湾人に国民党へのイメージを聞くと「老人と二代だらけ」と答えた比率が高い。2014年の台北市長で当時無党籍の柯文哲が国民党前主席・連戦の息子・連勝文氏を破って当選したのも、国民党の門閥政治に嫌がるのが原因と見られる。

相手陣営からの批判を耐え抜いた蒋萬安氏(左)と高虹安氏(右)(写真提供:中央社)

時を同じくしたこの頃より、両岸関係が緊張となり、意識調査によると、自分が台湾人という比率も増えた。これを要因に、2016年と2020年の総統選において蔡英文氏が選ばれ、対米日融和路線に舵を切った。しかし最近のネットでは「民進党は中国共産党にそっくり」「私は中国が嫌いけど民進党も嫌いだ」などの言論が続出する。なぜ中国への嫌悪感を持ちながら、民進党への不信感も増えてきたか。原因はネットの輿論戦に関わる。台湾の各政党がネット上で情報発信や相手への攻撃を仕掛けているからだ。特に若い世代の支持者を多く持つ民進党にとってネットは欠かせないもの。しかし今回の選挙で、その輿論戦が「やりすぎる」との指摘もあった。

フェイスブックでは民進党寄りのファンページが多数存在し、野党の候補者への攻撃を仕掛けている。攻撃の内容の正しさは問わず、この行動自体が嫌悪を招くのは確かな事実だ。その結果、一番攻撃を受けていた高虹安氏と蔣萬安氏が民進党の相手を下した。

これにより、台湾人が中国に嫌がっても、徐々に民進党と離れることがわかった。台湾人にとって「反中」の旗を掲げるのは、民進党に限らず、まだほかの選択肢があることも明らかにした。

台湾市民が自由広場で集会し、民主改革を訴求する中国の「白紙革命」に声援を送った(写真提供:中央社)

以上の2点こそが台湾地方選の結果につながる。台湾人の中国への不満は一切変わっていなく、台湾は引き続き反中国の立場を取り続ける。しかし民進党が最大の危機を直面しているのも確かなこと。 今回の敗戦を真摯に受け止めて現実と向き合わなければ、2024年の総統選で3回目の政権交代は起こりうるだろう。