【ポスト石破の日本政局 誰が浮沈を制すのか?】

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【読者投稿】7月、自民党が参議院選挙で惨敗した後、党総裁である石破茂は責任を痛感しつつも、辞任の意向を示さなかった。

しかし、党内からの「退陣圧力」は止むことなく、9月8日に予定されていた国会議員投票は、総裁選の前倒し実施を決定するためのものであり、事実上の石破に対する不信任投票であった。

さらにNHKの報道によれば、自民党所属の295名の国会議員のうち、すでに130名以上が総裁選の前倒しに賛同していた。

正面衝突を避けるため、9月6日、副総裁の菅義偉と農林水産大臣の小泉進次郎が連れ立って石破を訪ね、大義を説きつつ退陣を勧告した。

なぜなら、菅義偉こそが昨年石破を総裁の座に押し上げた「キングメーカー」であり、その影響力は絶大であったからだ。菅と小泉の連携は、石破にとって最後の決定打となり、孤立無援の中、ついに退陣を選択したのである。翌日、石破は「関税交渉が一区切りついた今こそ、辞任にふさわしい時機」として自ら辞意を表明し、面目を保ちながら政権を去った。

石破退陣は、自民党の構造的な病理を浮き彫りにした。すなわち、総裁交代の頻発により政策は定着せず、日本政局は「短命政権」の悪循環に陥っているという現実である。

*新局面の幕開け:高市 vs. 小泉

石破辞任後、大位を狙う面々の多くは昨年と同じ顔ぶれだが、最新の世論調査によれば、注目を集めるのは前経済安全保障担当大臣の高市早苗と、現職の農林水産大臣・小泉進次郎である。

*高市早苗:「岩盤保守層」の再結集。

ポスト石破の有力候補の中で、世論調査で最も支持を集めているのは高市早苗である。彼女は安倍晋三の理念的後継者であり、保守右派の精神的旗手である。憲法改正、防衛力強化、さらには台湾支持の明言に至るまで、立場は明確で旗幟鮮明である。これにより流失した「岩盤保守層」の支持を回復できるが、同時にリベラル派や中道層からは警戒される可能性も高い。

高市の強みは、鮮明な理念と旧安倍派の支援を背景にしている点だ。故・安倍元首相はトランプ米大統領の最も信頼する日本の政治家であり、その延長で、米国政界での経験を持つ高市はトランプとの共鳴効果も期待されている。

しかし課題も明白である。男性優位の国会文化において、女性政治家は酒席での交流やネットワーク形成が難しく、党内外の調整力に欠ける可能性があることだ。これが最大の弱点となり得る。

*小泉進次郎:メディアの寵児ゆえのジレンマ

対照的に、小泉進次郎は「政治のスター」的存在であるが、「政治の硬骨漢」ではない。端整な容姿と若者の支持によりメディアからは寵愛されているものの、政策的な厚みや討論力に乏しい。昨年の総裁選では世論調査で首位に立ちながらも公開討論で失速し、最終的に三位に終わったことが、彼の「光の部分が実力を凌駕している」ことを象徴している。

小泉の強みは、温和なイメージと中道左派寄りの柔軟な立場にあり、党内の亀裂を埋め、野党との対話を可能にする点である。

だが致命的な弱点は、経験不足、政策ビジョンの欠如、そして国際政治に正面から対峙する胆力の欠如である。トランプや習近平のような強硬な指導者と向き合う際、見劣りする恐れが強い。もし彼が首相となれば「過渡的首相」となる可能性が高く、「短命政権」の呪縛を断ち切ることは難しいだろう。

*新首相を待ち受ける三大課題。

誰が次期首相となろうとも、直面するのは以下の三つの難題である。

  1. 経済停滞:インフレ、不況、財政圧力が絡み合うなか、政策に確固たる軸がなければ長期停滞を突破できない。
  2. 党内と与野党調整:自民党内の抗争と政権交代の頻発、さらに「与小野大」の国会構造において調整力を欠けば、政権は早晩行き詰まる。
  3. 外交・安全保障:ウクライナ戦争の泥沼化、中東の火種、米中対立の激化――こうした国際環境下で日本は自由民主陣営における立ち位置を確立せねばならない。石破の「双方にいい顔」路線は失敗と証明され、今後の指導者は「日米同盟」に一層の軸足を置かざるを得ない。

この三重苦の前で、高市は理念と資源を持つが調整力に欠け、小泉は人気とイメージを持つが統治力に欠ける。両者の強弱は対照的であるが、いずれも日本政局に安定をもたらす保証にはならない。

*論評の結語

石破の辞任は、個人の敗北であると同時に、自民党の内耗の縮図でもある。現代日本の政治は、保守価値を守り日米同盟を強化する「鉄腕型リーダー」を求めつつ、派閥を超え党内外を統合する「協調型リーダー」も渇望している。

だが「魚と熊手」を同時に得ることは難しい。高市と小泉――剛と柔の対照はあっても、双方とも二重の期待を同時に担うには力不足である。

ポスト石破時代、日本政治は再び「女性と男性」の角逐の舞台に立つ。結末は、高市に象徴される強硬保守か、小泉に象徴される温和中道路線か――。日本を「短命政権」の輪廻から救い、漂流を免れさせるのはどちらか。答えは間もなく明らかになる。

2025年9月11日

医療法人輝生医院理事長 京都大学医学博士 大田一博