【保守路線を見失った自民党 ― 屋台骨が揺らぐ】

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【読者投稿】日本の政局は再び激動の渦中にある。昨年10月に誕生した石破茂内閣は、わずか1年足らずで退陣を余儀なくされ、自民党は再び総裁選に追い込まれた。

立候補者は5人に上るが、実際には高市早苗と小泉進次郎の一騎打ちの様相を呈している。

日本経済新聞9月29日の世論調查で自民党総裁選では、高市氏が34%でトップに立った。25%の小泉氏が続いたが自民党支持層に限ると、小泉氏33%、高市氏28%と1位が入り替る。

朝日新聞が9月21日に発表した全国世論調査では、高市が28%でトップ、小泉が24%で続いた。しかし自民党支持層に限れば、小泉41%、高市24%と逆転している。

他紙の調査も同様の傾向を示し、党員と一般有権者の意識の乖離が鮮明となっている。その背景には大きく三つの要因がある。

第一に、有権者の保守志向の高まりだ。

日経新聞の調査では、9割近くの国民が中国を脅威と感じている。

中国では反日映画の公開、中国にある日本人学校では、無辜の子どもたちが繰り返し犠牲となって、「抗日戦勝80周年」の軍事パレードが相次ぎ、習近平、プーチン、金正恩の3人が並んで閲兵する光景は、日本に敵意をむき出しにしたものだった。

こうした外圧が、日本国内の保守回帰を加速させている。

第二に、自民党からの保守層離れである。

党勢を支えてきた安倍晋三元首相の死去後、元安倍政権の重臣菅義偉や岸田文雄は辛うじて安倍の保守路線を継承した。

しかし安倍氏の政敵である石破が総裁に就くと、対中融和を志向し、路線を大きく転換。

結果として党員数は105万人から91万人へと激減し、わずか1年で14万人もの保守党員が離脱した。

三、党の方針と民意の乖離。

物価高に苦しむ有権者は「まず景気対策を」と求めているが、しかし石破政権は財政健全化に固執し、庶民感覚とずれを広げた。

外交でも米中の「等距離」を模索し、中国に歩み寄る姿勢を見せたが、返ってきたのは大規模な反日軍事パレードと反日の宣伝攻勢であった。

その結果、選挙が失敗で自民党は衆参両院でいずれも少数派に転落。1955年の結党以来初めての「二重少数」状態に陥った。

これは党の方針と民意との乖離を最も鮮明に示す出来事である。

政策選択の岐路

「保守岩盤層」を失った自民党は、大木の根が腐ったように力を失っている。国民が最も望むのは物価対策などの経済政策であり、強いリーダーシップを持つ首相である。

石破は財政健全化を重視し、減税には慎重な姿勢を崩さなかった。その結果、選挙では有権者が明確な不満を示した。にもかかわらず、小泉進次郎や林芳正は石破路線の継続を公言しており、民意との乖離は明らかである。

一方、高市は「まず経済を立て直し、その後に財政健全化」と訴え、アベノミクスの再評価を掲げる。石破退陣の翌日、株価が急騰した、「小泉なら円高、高市なら株高」との言葉まで飛び交ったのは偶然ではない。

高市と小泉、対照的な二人

小泉進次郎(44歲)は環境相や農水相を務めたが、党三役の経験はなく、石破政権の政策を継ぎ、国際舞台での実績も乏しい。強硬なトランプや習近平と渡り合えるかは疑問視されている。

一方の高市早苗(64歲)は総務相、経済安保相、政調会長を歴任し、経験は豊富。安倍氏の理念を継ぎ、台湾への強い支持も表明してきた。米国とのパイプも太く、保守層の結集が期待できる。ただし派閥基盤が弱く、国会運営で孤立するリスクは残る。

選挙の行方と残された不安

5人立候補の構図では、1回目の投票で過半数を得るのは困難だ。決選投票になれば、高市は派閥横断的な支持を集めにくく、昨年同様に敗れる恐れがある。

逆に小泉は菅義偉、石破茂、岸田文雄、麻生太郎??といった歴代首相の後押しで勝利する可能性がある。

しかし、若く経験に乏しい小泉が仮に総裁に選ばれたとしても、「キングメーカー」たちへの借りを背負い、自民党を自在に掌握するのは難しいだろう。

さらに保守層の離反に歯止めをかける力も持ち合わせていない。

それは自民党にとって不利であるだけでなく、日本にとっても、さらには世界の民主陣営にとっても望ましい状況ではない

結語 ―屋台骨が揺らぐ

日本の民意が大きく保守化する中で、保守本流を標榜してきた自民党が保守路線を見失えば、屋台骨が揺らぎ、上に乗るものも持たない。

とりわけ9月3日、中・露・北朝鮮の核を持つ独裁者が並んで反日色を強めた軍事パレードを行った姿を、日本国民が無感覚でいられるはずがない。

今回の総裁選は、「中道右派」と「中道左派」の対立にとどまらず、自民党の構造的危機を浮き彫りにしている──すなわち、党の方針と民意の乖離、支持基盤の流出、そして国際的圧力の増大にもかかわらず、強いリーダーの不在である。

石破退陣はその警鐘にすぎない。新たな総裁が誕生しても、日本が「短命政権」の呪縛から逃れられる保証はない。

荒れる国際情勢の中で政権を安定させられるかどうかは、自民党が果たして堅忍不抜の舵取り役を見いだせるかに懸かっている。

2025年9月29日

医療法人輝生医院理事長大田一博