意外と寒い台北の冬の生活

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台湾は中部の嘉義、東部の花蓮を通る北回帰線を境に、北部が亜熱帯気候、南部が熱帯気候に属している。緯度的にも沖縄本島より南に位置する台北は、冬でも暖かいと言うイメージを抱いている人もいるだろう。実際、2月第一週は好天に恵まれ、最高気温も25度前後と、汗ばむ陽気となった。しかし、それは晴れた日の場合であって、分厚い雲がひとたび太陽を覆い隠してしまうと、寒さとの戦いを強いられることになるのは意外と知られていない。

 

どんよりとした雲に覆われる台北101。
どんよりとした雲に覆われる台北101。

 

台湾の中央気象局の統計によると、今年一月の台北の平均気温は16.7℃であり、東京の5.5℃と比較すると11℃以上も暖かい計算になる。しかし、相対湿度を見てみると、東京の47%に対して台北は75%、昨年一月の台北の相対湿度に至っては85%と、台北の冬がいかにジメジメしたものであるかがお解りいただけるだろう。気温自体は決して低い訳ではないのだが、東京を遥かに上回る湿度が、台北の寒さの原因なのである。

 

では、この湿度の高さは何に起因するのであろうか。その一つは「東北季節風」である。これは冬になると日本列島の方角から吹き込んでくる湿った季節風であり、台湾北東部に雨雲を発生させる原因にもなっている。基隆は特に東北季節風の影響を受ける場所としても知られ、2008年2月の累積日照時間は29日間で僅か2時間、日本人に人気の観光名所である九份も、晴れた日に訪れることが出来れば現地の人から「運が良い」と言われる程である。また、台北は盆地であり、四方を山に囲まれていることから、雨が降りやすいと言う地理的条件も重なっている。

 

街を歩く人の姿を見ても、ダウンジャケットにマフラー、手袋と言う重装備の人を目にすることができる。特に風を切って疾走するスクーターを移動手段とする人にとってみれば、なおさら防寒対策が必要となる。しかし、台北の冬の厳しさは、屋外だけではない。台湾の一般家庭や、公共交通機関には、基本的に暖房が備え付けられていないため、外から自宅に戻ってきても、ジャケットやコートを着続けることはもはや普通だ。そればかりか、除湿のため、そして換気のため、あえてクーラーを運転させる場所もある。寒空の下で長時間バスを待ち、やっとの思いで飛び乗ったバスの車内が、外気より寒く、吐く息が白くなったと言うのは、嘘のような本当の話である。

 

また、ジメジメした台北の冬の弊害はこればかりではない。部屋中のありとあらゆる場所に発生するカビは、台北で生活する人とは切っても切れない問題だ。温暖湿潤の気候は、カビにとっては絶好の生育空間なのである。タンスの中の洋服、しばらく使っていなかった鞄、靴、壁、本棚、腕時計のベルトなど、気がつくと真っ白になっていることがある。勿論、東北季節風の影響を受けない中部や、気候が異なる南部、東部の冬はこればかりではない。しかし、台北の冬に限ってみれば、台北には台北の厳しさが存在する。日本に住んでいる人から「暖かそうで羨ましいです」と声をかけられるが、「日本の冬こそ、暖房があってカビが生えないから羨ましいです」と返事をしたくなる。