かつて、台北の光華商場が「海賊版の宝庫」と呼ばれていた時代があった。日本を中心にアメリカ等で放送されたドラマや映画、ビデオがコピーされ字幕が付けられた状態で売られていた。1シリーズ、300元〜400元ほどでCD-ROMに焼かれて販売される。これら海賊版は「作品が持つ権利を侵害する行為」であるが、その取り締まり体制も厳しくはなかった。
現在、法整備も整いつつあり、さらに動画がインターネットで国境を越えて流通するようになったことで、海賊版動画の存在価値が薄れ、光華商場も以前とは雰囲気を変え、インターネットのソフトウェア、アクセサリーなどの一般的な商品が多く並ぶようになった。
市場からはほとんど消えた海賊版商品であるが、完全消滅したわけではない。形を変え、台湾マーケットに残っている場合もある。台北市の大手書店に並ぶ「大口吃!大口吃!」(大口著)というグルメ紹介の書籍。台湾の人々は、台湾放送のグルメ番組「大口吃遍台灣」の公式書籍だろうと思うだろうが、そうではない。番組とは無関係な書籍だ。「大口吃遍台灣」の番組製作者である鍋光さんはこう語る。「この本は台湾の書店で見たことがあります。著者のモラルマナーには失望しました。番組の権利侵害として訴えることも可能かもしれませんが、あまり大きな問題にしたくはないので・・・」と、日本と台湾の友好関係を考慮して訴訟には持ち込んでいない。本のタイトル名「大口吃」という言葉が固有名詞ではなく「普通名詞」であることも、裁判に持ち込みにくいことの理由と判断した。書店に売られているこの書籍を見た台湾人客は「権利問題が敏感になっているこの時代に、このような行為は同じ台湾人として恥ずかしい」と話した。
台湾テレビ事情に精通する松竹史さんは「日本人が製作する番組に関して台湾で訴訟を起こし、勝訴に持ち込むのは極めて困難だ。しかし、この案件は勝ち負けの問題ではなく、モラルや作品製作者に対する敬意の問題。あたかも人気番組に関連するかのような本を出版し利益を得ようとするような行為がはびこるなら、制作者の士気も落ちる。法整備に頼るのではなく、個々人や企業のモラルの中で解消して欲しい」と訴える。
著作権や権利侵害の法整備が進み、台湾市場からも権利侵害著作物が消えつつある一方で、権利侵害とも解釈できる書籍の出現は、日台の出版物製作業界に大きな影を落とすことになりそうだ。