ベルリン映画祭でも上演された、蔡明亮監督が制作している行者系列(Walkersシリーズ)のうちの1本として南仏マルセイユで撮影された最新作、台湾映画「西遊」が第15回東京フィルメックスにて特別招待作品として上映された。(会期:11月22日~11月30日)
これに合わせ来日した蔡監督と主演の李康生は最終日の30日、映画上映後に有楽町朝日ホールにてQ&Aを行い観客の質問に答え、その中で来年1月に東京で同シリーズの撮影を計画していることを明らかにした。
蔡監督は「今回の訪日で池袋のロケハンをしたが、彼らの歩くスピードはとても速かった。しかし私はここで立ち止まって彼らを見てみたいと思った。来年1月にまた東京に来て撮影をしたい。その時、興味があれば皆さんも参加して李さんと一緒にゆっくり歩いてみてください。撮影の申請も出していないし、どこで撮るかもまだはっきり分からないけれど」と呼びかけ観客の笑いを誘った。
また、映像に映り込む約10分前からずっと歩き続けていたという李さんは「歩いているときは、通行人や車が通ったり、常に何かしらの障害が発生します。疲れもあるし、心を平静に保つため、お経を唱えたりもしました。基本的には無になって歩くことに集中していました」と過酷だったであろう撮影時の心境を話した。
なお、会場には黒澤明監督の「羅生門」に映画スクリプターとして参加していた野上照代さんの姿も見られた。野上さんは蔡監督に「同作は現代の世の中を象徴している、写し絵のようだと感じた。蔡監督はすごい監督。ずっと歩いているだけの作品だなんて、全く観客に媚びないのですね。観客のことを考えたことは無いのですか?」と問いかけ、会場では笑いが沸き起こった。これに対し蔡監督は笑顔で「私は皆さんのような頭がいい観客が好きだ。監督はある意味、セルフィッシュでなければいけないと思う。良い作品の為にはほかのことは顧みない」と答えていた。
同作は赤い法衣姿の李さんが超スローモーションで南仏マルセイユの海岸や街中を歩くだけのセリフもない変わった作品だ。蔡監督は「同シリーズでは、李さんのスローな時間と、普通の時間という2つの時間を映している。今の社会はあまりにも歩くスピードが速すぎる。志向を伴わない速さだ。その時に李さんのようにゆっくり歩く人がいたら皆は何を感じるのだろうか。現代人は忙しい忙しいと言うが、実はちゃんと時間を使えていないのではないか」と会場に問いかけていた。