~日台草の根交流に情熱を~「排湾古謡コンサート」を開催

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台湾原住民 排湾(パイワン)族「泰武古謡伝唱隊」の子供たち
台湾原住民 排湾(パイワン)族「泰武古謡伝唱隊」の子供たち

福岡市の西南学院大学コミュニティーセンターで行われた「排湾古謡コンサート」は万雷の拍手の中で無事に公演が終了した。台湾原住民 排湾(パイワン)族「泰武古謡伝唱隊」の18人のメンバー及び伴奏4人の先生に向けられた喝采は、250人を超える聴衆の皆が立ち上がり「素晴らしい!」「感激した!」と声を出しながら拍手する人々だった。時に8月8日(土)の夜の出来事だった。

排湾古謡は、素朴でゆったりと歌う唄にほんの微量の動作を付けた所作が特徴。日頃激しい振付けや叩きつける様に歌うテレビに慣らされた一般的なものと比べ、むしろ新鮮に映る。コンサートでは、それでも強弱のリズムが入るような箇所では、聴衆からの手拍子が自然に入っていた。また、童謡や家族の愛情などを歌う場面では、目を閉じ、指を組んで首をゆっくりと上下に動かしながら聞き入っている人も見受けられた。歌唱は、リーダーが一小節を歌った後に、周りが追随して歌いだす方法で、自然なハーモニーが醸し出される。演奏した約30曲目の中には、日本の「かごめかごめ」や「花いちもんめ」とよく似たものもあった。

コンサートの主要メンバーは6歳から18歳の男女。声質は、透明感あるものとは異なり、聞いていて「何かが足元からせり上がって来るような気持ち」との印象を受ける。また歌詞の理解とは別に、遠い昔を想い出し、あるいは昔の世界に引き込まれるような不思議な気分にさせられる。聴衆の中に、少数ながら言葉が理解できる人にとっては、より深い感動を得ていたのではないかと推察される。子供達が運んでくる「不思議な感動」には、聞いている人のそれぞれが、自分の深いところへ嵌り込むようなコンサートだった。

 

聴衆からは以下の感想が多くあった。

「素晴らしいコンサートでした。民族衣装の子供達が朗々と歌う様子に只々感激しました」「言葉は全然分かりませんでしたが、先祖霊を迎える厳かな唄、先祖霊への感謝の唄、結婚式の祝い唄、収穫の喜びの唄、男女の愛の唄、童謡と、その情感や雰囲気が歌声となって心に強く響きました」「一度は絶えかけた排湾伝承古謡を見事に復活させたことに感動を覚えます。その地道な努力の賜物が『天使の歌声』となって私たちに届けられたのですね」「終演後、出演の子供達と聴衆とが抱き合って別れを惜しむ光景は、皆の感動のあらわれでしょう。目頭が熱くなるのを感じました」「コンサートは『素晴らしい!』の一言に尽きます。近いうちにぜひ 排湾族の郷を訪れてみたいと思います」。

 

満員の客席
満員の客席

台湾最南端に暮らす排湾族の人口は96,839人で、台湾原住民で三番目に多い民族。聖山北大武山近くの泰武小学校には、幼稚園を含めて全校生徒136人が学んでいる。泰武古謡伝唱隊は、排湾族が代々伝承してきた古謡を歌う合唱団で、台湾のグラミー賞とも言われる「金曲奨(ゴールデンメロディーアワード)」の受賞歴やドイツ、フランス、アメリカなどの海外公演の経験もある。しかし、舞台慣れしているとは思えないところが逆に感動を呼ぶ源泉の1つになっていると見られる。

今回の福岡のコンサートは、「九州台日文化交流会」と「財団法人東元科技文教基金會」の共催で実現したもので、共催団体の一つである「九州台日文化交流会」の企画執行担当である本郷啓成さんと奥様のみどりさんとは、会場に近い福岡市早良区で歯科医院を営むご夫婦である。二人は台湾の医科大学を卒業して既に結婚していたが、日本から台湾原住民の顎顔面の研究に来ていた福岡歯科大学の大森忠雄教授と知りあった縁で1982年に来日し、同大学の助手を経て開業した。日本では東京に滞在した時期もあったが、住んでいる人々の大らかさ、暖かさなどの心情に触れて、福岡に定住することになったと言い、「台湾南部と福岡の人々の気風が似ていて住み心地が良かったのかな」と笑う。

本郷啓成、みどり先生ご夫妻
本郷啓成、みどり先生ご夫妻

啓成さんとみどりさんが目指すのは、二つの母国である台湾と日本の「草の根文化交流」である。政治家や官僚や有名人の交流はもちろん大事だが、普通の人が誰でも参加し、自分の目で見たり、聞いたり、体験したりすることができる交流の場の提供を、二人はずっと続けている。自分たちと数人の賛同者の力だけで毎年1回発行する雑誌「台日・草の根」はすでに6号を発刊しており、マスコミにも頼らず、広告掲載もなく発行部数は2000部に達している。

二人は今回のコンサートについて、「台湾の原石に触れてもらいたい」という気持ちを強く持っているようだ。「いまは文明・教養が人間の能力を抑えている。例えば、排湾族の人は『機械に頼らずこちらの山からあちらの山にいる人を呼ぶことができる能力』や『唇だけでなく、鼻で笛を吹く能力』など、文明社会の人々が失ったものを、今も持っている。

また、西洋音楽が人間(作曲家)の創作であるのに対して、文字も楽譜も持たない排湾族の人々が自然の中で先祖代々伝承してきた歌は、彼らの文化そのものである。このコンサートを聞いた人が、その中から自分達と共通するもの、違うものを見つけ出すことによって『オーストラリア~フィリピン~台湾~日本』の人々が共有するアジアの価値観や文化の底流を感じ取ってもらえれば、これほど嬉しいことはない」と話すお二人からは、静かな口調ながら「草の根交流」に対する強い熱意が感じられた。

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