1月16日に行われた台湾総統(大統領)選挙及び立法院選挙結果について、世論では野党・民進党の圧勝が謳われるなか、平成国際大学法学部長の浅野和夫氏は1月23日、プレスセンターで行われたアジア問題懇談会で「蔡英文or民進党の圧勝か、馬英九or国民党の大敗か」の題材で講演し、「国民党の今の態度が変わらなければ、国民党の将来は厳しい」と指摘した。
浅野氏によると、今回の選挙の特色は平年に比べ投票総数が低かった事をあげた。現に2012年の総統選の投票総数が13,452,016票だったのに対し、今回の総統選は12,448,302票と減少。およそ100万人が投票しなかった事を指摘する。これは、国民党支持者があえて投票に行かなかった事が起因しているとし、投票に行った国民党支持者のなかにも親民党に鞍替えするケースもあり、結果、民進党が与党国民党に約300万票の差で歴史的な勝利を勝ち取る結果となった、と浅野氏は分析している。また、同時に行われた立法院選挙でも、全議席数113議席のうち過半数を超える68議席を民進党が獲得。一方の国民党は選挙前の64から35まで議席を減らした。
では、国民党がこれほどまでに国民からの支持を失ったのは何故なのだろうか。一般的には、台湾人の「私は中国人ではなく台湾人である」といった台湾アイデンティティの高まりが原因とも見られているが、2014年に起こった馬英九総統が中国とブラックボックスの中で進めてしまったサービス貿易協定の問題や、昨年に歴史的な両岸トップによる首脳会談を実現させ、中国に接近していた国民党への警戒が強まった結果なのではないかという例も挙げられている。
しかし、浅野氏は、「台湾の政治大学選挙研究センターが毎年行なっている台湾アイデンティティに関する意識調査を引用し、2008年より中国人の訪台者の増加と中国で仕事をする台湾人の増加が関係している。2008年から2012年にかけて、すでに『私は台湾人だ』という人は急激に増加していた。しかし、2012年の総統選では、その結果に関係なく国民党が勝利。選挙に影響はなかった」と分析した上で、国民党への不信感は「組織原理の非民主制が原因だ」と結論づけた。
さらに、国民党はここ数年、馬総統と立法院の王金平院長との間にある、あからさまな党内対立があり、その背景からか、総統選3ヶ月前の異例の擁立候補者の変更、国民党の総統選候補者だった朱立倫氏の4ヶ月間新北市長を休職しての出馬などの退路を用意した生半可な態度など、国民党支持者をしらけさせる一連の動きがあった。この結果、浅野氏は「このような態度が続くならば誰が投票に行くか、という民意が露骨に表れたのが今回の選挙結果」とも指摘した。
2016年、民進党から台湾初の女性総統が誕生し、今後の民進党の動きに期待と不安が集まるなか、国民党の再生に向けた動きがみられるかどうかにも注目したい。