博多祇園山笠のクライマックスとなった7月15日の早朝に、締め込み、法被(はっぴ)姿の台湾からの留学生5人が勢いよく福博(福岡・博多)の街を駆け抜けた。
正確に言うと留学生のOB1人と現役4人で、下記写真の前列左から羅允謙、林立山、黃柏瑋、陳柏瑋、李宗仁の各氏である。羅氏は2015年度の台湾在日福岡留学生会・会長で、九州大学を卒業して現在は愛知県の自動車関連会社に勤めているが、山笠に参加するためにわざわざ有給休暇を取って、前日飛行機で福岡入りした。今年が4度目の山笠だという。残る4人は今年が初めての参加だ。
櫛田神社の氏子町内に住むか仕事場がある人以外はなかなか受け入れてくれない伝統行事の下、土居流の世話役などの奔走で初めて博多祇園山笠に迎え入れられた2007年から数えて、台湾留学生の参加は今年がちょうど10年目の節目にあたる。彼らを受け入れた土居流の世話役と留学生会との話し合いで、毎年の参加人数を5人に絞り、そのうちの1人ないし2人は一度限りでなく、2年以上継続参加して後輩を指導すること、などの独自ルールを作っている。人数が多すぎると様々なしきたりが持っている意味などが正しく伝わらないし、基本的なルールを世話役から何度も繰り返して教育する余裕がないからだ。
締め込みひとつ身に付けるにも作法があり、仕上がりの形が決められているが、これ以外の作法やしきたりにもそれぞれ歴史と意味がある。また、留学生が参加する「土居流」など、7つの「流」は太閤秀吉の時代から伝わる自治組織の名称で、それぞれが10~13ヵ町からなるコミュニティーであり、そこに集まる年長者から子供までの全てに、果たすべき役割が決められている。日常出来ない交流を深めるとともに、流(ヤマ)ごとの走りのスピードを競うために、期間中、徐々に集中力を研ぎ澄ませ、結束を高めていくためである。この中で、お互いが気を配り合って阿吽の呼吸で動くことが要求される。
はじめは締め込み姿になることを恥ずかしがった留学生達も、歴史と伝統の中身が分かり始めると、次第に溶け込み、周囲の人々からは「今の日本人にはない気遣いを持っている」とか、「まだ言葉は不自由でも、何にでも積極的に取り組もうとする姿勢に感心した」などと言われるようになった。
台湾にも旧暦9月15日に「五府千歳祭」というお祭りが台南で催され、お守りを身に付け、法被を着てお神輿を担ぐそうだ。「そのお祭りも大勢の人でにぎわうが、博多祇園山笠はヤマを舁く人、応援する人など、福岡の人々が心を一つに溶け合い、盛り上がるだけでなく、九州全体・日本中からから熱い男が集まる。また、お年寄りから子供までが雨の中でも助け合いながら全力で5キロメートル走るのを見て感動した。自分達はこのお祭りに参加できて光栄である。できることなら来年も再来年も参加したい」と彼らは言う。
今年4回目の参加となった羅允謙氏は「自分は山笠参加を通じて、多くの方々と知り合った。また、日本文化の一端を学ぶことができた。このような市民レベルの交流が台湾と九州、台湾と日本の理解や友情を深めるのに貢献すると思う。これからも留学生の皆さんには積極的に参加してもらいたいし、日本の人々にも、媽祖巡礼や五府千歳祭に来ていただきたい。毎年留学生の山笠参加のお世話役をしてくださっている桜井伸平氏、嶋田正明氏ほかの皆様には、これからもご指導をよろしくお願いしたい」と締めくくった。