台湾若手実力派作家の甘耀明さんの代表作である「鬼殺し(上)(下)」の日本発刊を記念し1月22日、ブックファースト新宿店で、甘さんと「流」で直木賞を受賞した作家の東山彰良さんのトークショー及びサイン会が開催された。
同イベントは、昨年12月27日に日本で発刊した「鬼殺し」の発売を記念して開催されたもの。台湾客家出身の甘さんと、台湾国籍を持つ同書推薦者である東山さんが、同書の魅力と創作背景、台湾の伝統的な宗教について等作家の視点での語り合いトークショーをしたほか、Q&A、サイン会を行い、ファンとの交流も図った。会場には多くのファンが駆けつけ、満席となった。
東山さんは冒頭、マジックリアリズム(日常にあるものが日常にないものと融合した作品に対して使われる芸術表現技法)を好んでいる事を話し、その上で、「この『鬼殺し』はマジックリアリズムの教科書である」と絶賛し、同書の帯に自分の名前が載ることを「光栄だ」とした。また、「これから先、この甘さんの物語を基に自分の物語を組み立ててしまうのではないか、しばらく自分自身が自由になれないのではないか、それくらい影響の受けた作品である」とコメントした。
これに対し甘さんは、「日本の統治時代の兵士を大げさに表現したり、物事をほら話のように想像力豊かに描写したりする事で、戦争を知らない読者に伝える事ができたと」自評した。さらに、「鬼殺し」の名前について、「鬼」とは中国語では幽霊の意味があるか、深い意味で見ると、敵対の相手となる。同書でも、敵対の相手に悪名を与えたいという思いから、その「鬼」の殺し合いの意味を表しているとした。
また、同トークショーでは、甘さんも東山さんも、幼少期は祖父母に育てられたという共通点がある事が明らかになり、両者は「環境により、自然と口承文学よりの作品となっていて、幻視的経験や原風景によって知らず知らずのうちにマジックリアリズムの手法を用いているのだ」と語り合った。
「鬼殺し」は日本統治期から戦後に至る激動の台湾・客家の村で、日本軍に入隊した怪力の少年が祖父と生き抜く物語で、甘さんが闘病を乗り越え、5年の歳月をかけて書き上げた約40万字の長編作品。2009年遂に台湾で発刊が叶い、台北国際ブックフェア小説部門大賞等数々の賞を受賞し、作家として高く評価された。
なお、同書の翻訳は、甘さんの作品「神秘列車」の翻訳も担当した白水紀子さんが務めた。白水さんは、横浜国立で教授の仕事をする傍ら同書の翻訳をし、3年もの月日を経て、このほど日本で念願の発刊となった。
(2017/1/23)