日台友好団体の「日本李登輝友の会」は5月28日、東京都内で第69回台湾セミナーを開催した。安全保障の専門家(元海上自衛隊海将)の松下泰士氏を講師に招き「台湾有事は間違いなく日本有事」「日本は台湾有事に備えて何をするべきか」をテーマに、経験を踏まえ具体的に講演した。ロシアのウクライナ侵攻により「今日のウクライナは明日の台湾」の懸念が強まり、約50人の老若男女が詰めかけて熱心に耳を傾けた。
松下氏は中国による台湾侵攻について、河野克俊・前統合幕僚長が「(中国が台湾侵攻を)やらない可能性はない。『やる』『やらない』ではなく『いつやるか』だと発言しているが、自分も同じ意見だ」と明言した。「侵攻をいつやるか」の時期については、私見とした上で①中国が非軍事的統一は無理と判断した時(台湾の明確な独立意思)②中国軍が米国と戦力差で圧倒的に優位に立った時③米国が一国主義化を選択した時、④中国共産党が正当性の危機・国内不安に陥った時⑤ロシアのウクライナ侵略が成功した時⑥習近平が誤った判断をした時、との考えを示した。その上で「2027年の人民解放軍建軍100周年が一つの節目になるのではないか」と論じた。
また、中国は直接的な軍事力行使は行っていないものの、台湾に対しハイブリッド戦をサラミ・スライス戦術で続けているとの認識も示した。ハイブリッド戦とは、軍事と非軍事の境を曖昧にして、サイバー攻撃、偽情報の流布などを駆使して現状変更をめざす事。サラミ・スライス戦術とは、サラミを薄くスライスして一枚ずつ食べていき最後は全体を食べてしまう事。さらに、中国は「戦狼外交」(攻撃的な外交戦術)で、AIIB(アジアインフラ投資銀行)、債務の罠、経済圧力、詐欺、恐喝、詭弁などを使い、国際社会で自国優位の体制をめざして布石を打っていると断じた。
松下氏はこうした中国に対し「日本は毅然とした態度で(軍事侵攻阻止の)覚悟を示す事が重要だ」と述べた。台湾有事に備えて日台間の協議が欠けているとし、情報交換要領、在台湾邦人避難輸送計画、避難民受け入れ輸送計画などを事前協議で取り決めておくべきだと具体的に提言した。
セミナーに参加した男性(68歳)は「松下氏の話はわかりやすかった。日本政府と日本人が声を上げないと、中国は侵攻に走ってしまうとあらためて思った」と感想を語った。
バイデン米大統領が日本での記者会見で、記者から「(台湾有事で)米国は台湾防衛に軍事的に関与するか」と問われ「イエス」と答え、対中国の安全保障問題は台湾でも関心が高い。台湾の大手メディア「自由時報」「中央通信社」の東京駐在記者らが今回のセミナーを取材した。
【松下泰士氏】
海上自衛隊で護衛艦ゆうぐも艦長、第3護衛隊指令などを歴任。2012年~14年に自衛艦隊司令官(事実上海上幕僚長に次ぐナンバー2)を務めた。対中国の「海の守り」の中心にいた人物。退官後は台湾を訪問するなど台湾海軍幹部らと交流を続けている。