日台友好団体の「日本李登輝友の会」は5月27日、東京都内で第78回セミナーを開催し、台湾日本研究院主任研究員の藤重太氏が講演した。台湾日本研究院は2021年9月、台湾で李世暉・政治大学教授を理事長に設立されたシンクタンクで、藤氏は最近、台湾に3週間ほど滞在して、多数の関係者に会ってきた。講演では見聞きしてきたばかり経済、軍事、コロナ対策、来年の総統選情勢など幅広く台湾情勢について語った。
台湾有事に関連して、藤氏は台湾滞在中に知人から「日本では台湾有事についての議論がさかんだが、内容は台湾有事が起こるか起こらないかばかりで、どうしたら有事が起きないようにするかの議論がない。台湾人には日本は台湾有事が起こってほしいように聞こえる」などとの指摘を受けたと明かした。
そのうえで、藤氏は「台湾有事は起こらないと思う」などと自らの台湾有事の考えを明らかにした。根拠として、①半導体大手のTSMC、②米国製戦闘機F16の整備工場、③楽山レーダー基地――を挙げた。①のTSMCは世界の半導体製造を担っており、同社の半導体製造が滞ってしまったら、米国だけでなく世界の経済が混乱してしまう。②のF16整備工場は台中の漢翔航空工業沙鹿工場にあり、2020年8月に完成した。③のレーダー基地は2022年6月完成、新竹県の標高2620㍍の山上にあり、2500~4000㌔という広範囲に目を光らせる米国製のレーダーを備えており、米国をも守るため、北朝鮮、中国のミサイル発射をとらえる全域ミサイル防衛(TMD)の中核施設の一つといわれている。もしも米国に台湾を守る意思がなければ、②③は台湾側に技術を供与することはないとみられている。
また、藤氏はTSMCに関連して、2022年8月、米国のペロシ下院議長が台湾を訪問した目的の一つは、TSMCの最高指導者、張忠謀(モリス・チャン)氏に会うことだったと指摘。総統府が発表した関係者が一堂に集まっての記念撮影の写真を示し、「モリス・チャン氏が写っている」と語った。2022年12月の米アリゾナ州のTSMCの新工場建設の式典にはバイデン大統領をはじめ米アップル社や米AMD社のCEOらが出席しており、米国がTSMCを重視していることを示している。藤氏は「(こうしたことは)台湾が(対米国関係で)ポジショニングを確立してきた結果だ」と語った。
その一方で、藤氏は台湾、中国間の緊張は高まっているものの、経済交流では台湾から中国・香港への輸出(2021年)は、台湾全体の輸出の41%を占め、習近平政権にとって中国国内の経済をまわすため台湾は不可欠な存在になっていると指摘し、「台湾は中国、米国をうまく使っていると思う」と述べた。
李登輝友の会の次回のセミナーは、6月24日開催の予定。詳細は同会のHPで。