「ドンドン!」とホテルの部屋のドアを叩いた私。少し待ってから「お邪魔します」と言いながらドアを開けた。「いまお前何したの、バカみたい」と私の行動に笑う日本の友人。「台湾人だったらみんなそうするよ」と答えると「はっ?なんでそうやらなきゃいけないの」とびっくりした様子。「中にいる『好兄弟』に『私たちが入りますよ』と伝えるだけ」との返答に「誰もいないよ。そもそも『好兄弟』って誰?」。私は「『好兄弟』は、ミタマだよ」と言った。
信仰が篤く台湾
台湾は華人世界においても、最も宗教活動が繫栄しているところと言っても過言ではない。伝統的宗教には、主に仏教、道教、そして民間信仰が挙げられるが、現在では少数の純粋な仏教寺院以外、殆どが道教と混在している。
道教は中国本土から伝わってきた宗教で、高尚な精神を持つ人物を尊敬することから、そのような人物を神格化し廟に祀って崇拝するのは普通なことだ。関聖帝君(関羽)や媽祖(林黙娘)はその典型的な例と言える。 台湾人が崇拝する神々は多く、その風習と文化は台湾の日常生活に大きく影響を与える。この文章のエピソードは台湾伝統的信仰の絶好例だ。
世界3大宗教イベント「大甲鎮瀾宮媽祖巡礼活動」
そんな信仰が篤く台湾では、さまざまな宗教イベントがあり、中でも世界3大宗教イベント「大甲鎮瀾宮媽祖巡礼活動」は最も有名である。大甲鎮瀾宮とは台中市大甲区にあるお寺で、1730年に造られたと言われている。
媽祖は昔、航海の安全を守る神様として台湾人に祀られてきたが、今では漁業にとどまらず、商売、受験、健康など生活に関わる様々なことを見守っている。
その媽祖巡礼活動とは、媽祖の誕生日(旧暦3月23日)前後9日間にわたって台中から南下し、彰化、雲林、嘉義を歩いて嘉義の新港郷媽祖廟の奉天宮まで行き、再び大甲鎮瀾宮まで徒歩で戻る。往復の行程距離は計320キロに及ぶ。毎年台湾各地から巡礼に参加する信徒が多数おり、今年は延べ100万人を超えた。長い歴史を持つイベントとして、2008年に台湾政府に国の重要無形文化財に指定されている。
今は台湾しか見えない伝統「鬼月」
台湾では毎年の旧暦7月のことを「鬼月」と呼び(今年は8月16日から9月14日)、先祖や無縁仏の魂がこの世に戻ってくると言われている。台湾の色々なお寺と廟が、旧暦7月1日に「鬼門開」という儀式を行い、あの世の扉が開く。
台湾の人々は、この1カ月の平穏無事を祈るため、旧暦の7月15日「中元節」にお供え物を用意し、先祖や無縁仏の霊を祭る。これが台湾人の言う「普渡」だ。この時期、台湾のスーパー、コンビニでは普渡でお供え物として使える商品が並べられており、台湾でしか見られない風物詩でもある。
そして鬼月の1カ月は、悪い霊はいろいろな悪いことをすると言われ、その悪運を避けるためにしてはいけない「タブー」とされることが多い。例えば、結婚式を挙げること、夜に口笛を吹くこと、夜に洗濯物を干すこと、家を引っ越しすること、転職することなど、とにかく新しいことを始めるのを禁じられている。
おわり
台湾人は現代社会でも、宗教の風習や伝統文化に従って日常生活を送り続けてきた。もちろんこれらは「俗信」とも言えるが、これも台湾文化の一部で、台湾人の話と言えば「すでに台湾人のDNAに溶け込んだ」でもあるだろう。将来の世代も、この伝統を引き継いでいくと、私は信じている。