名店が隣り同士で凌ぎを削る…、台湾ならではの光景だ。「同業者が集まることで客を集めやすくライバル店同士であっても利点を共有できる」ことを「集積メリット」と呼ぶが、台湾の夜市はその典型パターン。台湾夜市は個々の店を前面に押し出すのではなく、「夜市」全体をPRして、客を大量に呼び込み、客がその中から個別に店を選択するというシステム、鶏の唐揚げ、魯肉飯、炒麺など同じメニューのライバル店が同一夜市内では多数存在するが、夜市のブランド化によって呼び込まれた客の数が多いため、夜市内で客を奪い合っても大勢に影響しない。
台南にも、伝統の名店同士が隣り合わせとなり「集積メリット」を形成する場所がある。担仔麺の「度小月」と花枝羮でお馴染みの「赤崁樓」だ。「度小月」と言えば、台湾各地に支店を持つほどに大きくなった老舗。あっさりしたダシの風味に、エビの香りがほんのりと活きる味わいが特徴。「赤崁樓」はコリコリのイカと魚のすり身でつくった団子を入れたスープ花枝羮が看板メニューで、台南と言えば「赤崁樓のイカスープ」と連想するファンも多い。
台湾の多くのガイドブックに紹介されているこの2店。実は隣り合わせで、「台南滞在中に2店どちらも食べ歩こう」と考えている旅行客は拍子抜けすることも多い。旅行客にとっては「便利」な話だが、気になるのは「名店同士が並んだら客を奪いあってマイナスにならないのか?」という点。
台湾の飲食店経営者は言う。「台湾では同業他者が並ぶことはよくあるケース。露骨に『勝負』を挑むケースもあるが、台南のこの2店の場合は若干違う。名店同士だが、まったく同じ食べ物を出しているわけではない」…たしかに、タンツー麺とイカとろみスープは違う。しかし、サイドメニューでは「ビーフン」「魯肉飯」などで重複する…。「メインが違えば、問題はない。ポイントは客単価が安いこと。安い分『度小月で担仔麺を食べて、その後、赤崁樓で花枝羮を食べようか』という『はしご』ができる。2店舗の従業員同士、仲良くやってますよ」と関係者は続ける。夜市もそうだ。日本は食の単価が高いので、「1店1店でちょこちょこ食べる」は非現実的。食事の単価が安く食べることでも「はしご」が可能な台湾だからこそ産まれる「共存」である。