今ほど日本が台湾にどう関わっていくかを問われているときは無い!

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九州大学(久保千春総長)が1月7日、8日の2日間、同大学西新プラザで開催した「台湾事情公開講座」において、台湾報道・解説の第一人者である野嶋 剛氏(元朝日新聞台北支局長)が「日本人にとっての台湾」と題する講演を行い、九州大学で台湾を研究する学生や台湾問題に関心を寄せる市民など約90人が、台湾人のアイデンティティ、台湾・中国・米国の関係についての日本人の誤解、健全な日台関係構築のための提言など、野嶋氏の話に興味深く聞き入った。

同氏はまず、学生の台湾に対する理解を確認するために、「台湾の正式な国名は? 台湾は「国家」か? 台湾は中国の一部か?」などをクイズ形式で質問することから話をスタートさせた。

九州大学の「台湾事情公開講座」で講演する野嶋 剛氏

当たらずとも遠からずという学生からの答えに対して、野嶋氏は国名ではないが通称として使われる「台湾」、メディアなどでは使われない「中華民国」、スポーツ大会で使われる「中華台北(Chinese Taipei)」、アジア開発銀行での「中国台北」、在東京大使館の「台北駐日経済文化代表處」などの名前を紹介し、錯綜する台湾の呼称や立ち位置について説明した。

最近日本で関心が高まっている「アイデンティティ問題」については、李登輝改革以降「台湾人」という意識に集約されてきているものの、いまも「中国人」を意識する人も一定程度いることを忘れてはならない。日本人と日本国民が、また日本民族と大和民族がイコールであるのは当たり前であり、それについて考える必要のない我々とは異なり、台湾社会ではアイデンティティを考えずには社会が成り立たないことを、様々な調査結果を示しながら解説した。

また、台湾と中国との関係について、日本人が陥りがちな「統一か独立か」、「台湾の人々は反共だ」という議論については、①台湾人にとっては統一か独立かは主要問題ではなく、事実上の独立を守りたいが中国とは良好な関係を保ちたい。中国との距離感だけが問題であって、統一・独立問題は彼らの間では終わっていること。 ②多くの台湾人はすでに「中国=自分」でなく「中国=他者」と意識しており、脱中国のプロセスが進んでいることを述べ、この問題に対する誤解を解く必要があると述べた。

「真ん中に立った台湾論」のための提言をした野嶋 剛氏

更に、日本人が持ちがちな「危うい台湾論」に触れ、事実認識を深めるべきと説いた。すなわち、①「中台兄弟論」については、現在の台湾は「脱兄弟」のプロセスにあること。②「米国主導論(結局台湾の運命を握っているのは米国であると考えること)」については、米国も万能ではなく、米国が提供するのは万一の時の安全保障に過ぎないこと。③「日台運命共同体論」については、日台は別々の国家で、民族、言語、風習、価値観のどれも異なっている。台湾の利害と日本のそれは必ずしも一致しない。それは原発事故で汚染されたと彼らが考える食料輸入に対する態度や、尖閣問題、沖ノ鳥島問題にはっきりと示されていることなどである。

最後に台湾を考える6つの鍵として、①日中米GDP 三大国の利害関係に関わること。②東アジア史の縮図であること。③台湾自身が「日本の鏡」であること。④南シナ海、尖閣諸島、沖縄など日本の国益に密接に関係する問題に台湾が深く絡んでいること。⑤台湾自身で「静かな革命」は今も進行していること。⑥日本社会で台湾への関心が高まっていること。を挙げ、偏りなく「真ん中に立った台湾論」を考えるための4つの提言、すなわち①台湾問題を中国問題からいったん切り離すこと。②保守・右派と革新・左派のポジショントークから脱すること。③普遍的な価値観や自然な心情で台湾を見ること。④良好な相互感情を基礎に普通の良き隣国・隣人・友人を目指すこと。を挙げ、「今ほど日本が台湾にどう関わっていくかを問われているときは無い」と締めくくった。