世界最大手の半導体受託製造会社「台湾積体電路製造」(TSMC)は、2月9日に行われた取締役会で「日本に先端半導体製造の研究開発拠点を設置する」と決議し、同日発表した。投資額は186億円で子会社とする。拠点は茨城県つくば市で、主力事業は高性能な3次元集積回路(IC)の「製造技術の開発拠点」となる。
これを受けて梶山弘志経済産業相は2月12日の記者会見で「歓迎する」と表し「これから日本の半導体産業の発展に期待する」と述べた。また、今後の半導体産業の発展については「我が国が強みを有する材料、装置メーカーとの連携が促進され、国内半導体産業の活性化につながる事を期待している」と述べた。TSMCが研究開発を目的として子会社の設立した事ことは「日本政府の戦略とほぼ重なっている」と見られる。
自動車向けの半導体不足が叫ばれる昨今、現況では世界の自動車生産に影響が及んでいる。現在、自動車メーカーは生産台数の減産などを余儀なくされている。この対策として、目下、TSMCなど各国の半導体製造の有力企業に対して半導体の増産要請を訴求している。また、並行してそれぞれの自国の半導体サプライチェーンを整えていく必要性を認識。さらに、海外勢との連携が必要不可欠とし「半導体政策こそが産業発展の共通の柱」となっている。今回のTSMCの海外拠点進出による今後の動向には、世界中が注目している。
今年に入り、台湾メディアから「TSMCが日本に新工場を設立する」との報道がなされた。しかし実際には「生産拠点」ではなく「研究開発拠点」だった。一部の台湾メディアは「日本からの注文は多くないとの認識から」と報じた。
TSMCは世界最大の半導体受託製造会社であり、世界最先端の先進製程技術を持っている。海外からの増産要請が殺到した事などから「半導体産業において自社の重要性を認識している」(TSMC)。しかし一方で台湾では、半導体の装置、材料の供給面での不足が深刻化している。TSMCが使う装置と材料は、現況では米国、オランダ、日本からの輸入に依存している事も一因。日本の子会社を「研究開発拠点」にした理由も「日本から安定的な供給を取得するのが一つの狙い」と理解するのが一般的だ。
一方、日本はこの理由から自動車を一部減産しており、産経省は「自給率が足りない」と半導体産業の現状を危惧している。しかし装置製造及び材料などの部材の提供においては「日本は有力な大国」(台湾業界筋)と認識。2019年日韓貿易紛争で、日本が半導体材料の輸出制限を打ち出し、韓国の半導体産業に大きな影響を与えた事も、それを裏付ける。
茨城県つくば研究学園都市は、東京の過密緩和や科学技術の振興、高等教育の充実、そして研究・教育機関等の拡充を目指し、つくば市に移転・建設された。現在、同市は日本最大の研究・教育機関の集積地域であり、国と民間の研究機関を合わせると160所を超える。
なお、つくば市は1月18日、政府の人工知能(AI)やビッグデータといった先端技術を活用した「スーパーシティ」の申請に向けた基本方針案を表明。つくば市ホームページが「スーパーシティ」について、「『誰一人取り残さない』包摂の精神のもとで、世界トップレベルの科学技術を結集し、デジタル、ロボティクス等の最先端技術の社会実装と都市機能の最適化を進めていく」と説明した。TSMCは、日本最先端の研究機関に携わることを考慮し、つくば市に拠点設立したと考えられる。また、長期化する米中の貿易、科学技術の対立を巡り、米国と日本はTSMCの進出と連携し、サプライチェーンの構築に連動させる事にも期待を寄せる。さらにTSMCは、第5世代移動通信システム(5G)で日本企業と協力を結び、自社の半導体の性能向上を狙う。