「安全はタダでは手に入らない!」たまたまの会・交流会で

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「たまたまの会」に集まった皆さん

福岡の台湾友好メンバーが集まる「たまたまの会」(小早川隆直幹事)の会員27人が9月2日に台北駐福岡経済文化弁事処(駐福岡台湾領事館)を訪れ、陳銘俊総領事並びに鬼木 誠衆議院議員と懇談・交流を行った。

同会はコロナ禍でしばらく休止していたが、陳総領事の着任一周年並びに福岡選出の鬼木議員の防衛副大臣退任を機に、それぞれの職務を通じて得た感想を聞くとともに、二人の一年間の慰労をしようと開催したもの。

各地を訪問する両人の仕事を考慮して、全国を地域ごとに分けてジャケットの襟などに着けられるピンバッジの贈呈があり、最初に陳総領事がそれを示しながら、着任後の感想を述べた。

ピンバッジを示しながら活動を振り返った陳総領事

私は、着任一年弱で既に85の自治体を訪問し、100人以上の知事、市町村長に会ったが、どこに行っても心からの歓迎を受け、大変感激している。

30年前に初来日したときは、日台の国交断絶から時間が経っておらず、なにかとギクシャクしたのに比べると、最近の日台関係は様変わりに良くなっている。台湾は今も正式な国交を持つ国が少なく、国際的な孤立状態に置かれているが、日本との関係は全く違う。私が訪問した多くの地域では台湾国旗の歓迎を受け、父母が「湾生(台湾生まれ) 」という人も駆け付けてくれた。

台湾と日本は台風、洪水、地震など、共通の自然災害に苦しむことがあるが、今は重大な局面ではお互いに駆け付け、助け合うことが常態化している。コロナ前には台湾の人口の4分の1に近い人がビジネスや観光で日本に来ていた。両国はもう仲の良い友達の域を超え、兄弟姉妹であり、家族であると言っても過言ではない。

台湾にはいまだに総統府をはじめとして、日本人が建てた建物や橋、ダム、鉄道などが活用されている。しかもそれらが自分の業務エリアの九州・山口の諸先輩によって作られたものが多いことに不思議な縁を感じている。

こんな関係にありながら日本に対して不思議に思うことがある。それは「もっと真の国益を考えた行動をすべきではないか?」ということである。かつて世界一を誇った製鉄や半導体の技術が流出し、日本から指導・支援を受けた国がライバルとなって日本を苦しめているのは、なんとも歯がゆく思われる。最近は新幹線までがそうなってしまっている。日本の大手企業には短期の経済的なメリットより長期的な国益を考えて行動して欲しいと思っている。いま熊本に台湾から世界一の半導体企業・TSMC(台湾積体電路製造)が進出を決め、工場建設が進められているが、この他にも多くの分野で台湾は日本に寄与できるし、逆に日本の協力・支援をもらいたい分野も多い。

私の役割は台湾と日本の架け橋になることであり、ぜひ皆さんの力を貸していただきたい。

次いで鬼木衆議院議員(前防衛副大臣)が、2020年1月に台湾に家族旅行をした思い出を皮切りに、我が国の安全保障面で大きい動きのあった副大臣時代を振り返った

鬼木議員(上・左)の話を聞く

私は2021年10月8日に防衛副大臣に着任しました。それまではあまり騒がしくなかった日本周辺ですが、就任直後に北朝鮮がミサイルを発射したり、中国とロシアの艦艇10隻が日本を一周するなど次々と事件が起きました。

北朝鮮のミサイルは、弾道軌道、ロフテッド軌道、極超音速滑空軌道など、打ち上げる度に種類を変えてきますが、我々は発射を感知し、それがどんな軌道を描いて、何分後にどこに落ちるかを予測し、上空と落下地点近くで迎撃する「2段階の防衛・迎撃態勢」を取っています。

この態勢に対して野党からは「100発同時に撃ってきても大丈夫か?原発をターゲットにされる恐れがあるので、電源としての原発稼働を止めるべきではないか?」と言ってきますが、エネルギー事情を考えるとそうもいきません。このために議論されているのが「敵基地攻撃能力(その後『反撃能力』)というものです。

また年明け2月にはロシアがウクライナに侵攻し、世界を震撼させました。多くの人はウクライナ侵攻はないだろうと考えていましたが、実際に起きてしまいました。ウクライナの産業は西部では小麦生産中心の農業ですが、東部や南部は旧ソビエト連邦の一員だった頃からロシア向けの軍需・宇宙産業や精密機械、鉄鋼業が盛んな工業地帯でした。科学技術の水準も高く、中国の空母「遼寧」はウクライナで建造されました。いわば旧ソ連の軍需工場であり、原子力発電所もあり、核兵器も持っていました。

しかし、親欧米政権が発足したときに核兵器をはじめ、軍備の多くを手放しました。そしてソチオリンピック直後にあっという間にクリミヤ半島が奪われる結果になりました。

この時の経験からロシアは今回の侵攻も4、5日で片付くと思っていたのではないでしょうか?

しかし予想外に強いウクライナの抵抗と「力による現状変更を容認しない」とする民主主義諸国の支援で長期化しているのが現状です。

これは我が国にとっても重要な教訓を含んでいると思います。「甘く見られて攻め込まれてはいけない」ということです。どこからも攻め込まれないための「抑止力」の必要性です。

わが国には国を守るための「戦略三文書」というものがあります。①国家安全保障戦略、②防衛大綱(10年ごとの計画)、③中期防衛力整備計画(5年ごとの予算、装備)です。岸田首相はこれを「今年中に全部作り替える」ことを表明し、私も副大臣としてその作成に取り組んできました。その中で防衛予算をGDPの2%に引き上げるという目標が浮上しました。これまでは1%でしたが、北海道にとってのロシアの脅威、南西諸島に対する中国の脅威に対処するには1%の枠内ではやり繰りできないのです。

防衛予算のGDP比2%という数字はNATOが加盟国に要請している「平和のコスト」なのです。大変残念ですが、我が国には「ただなら守ってもらっていいけど、有料ならいらないよ」と考える人や「自衛隊の飛行機の音は我慢できない」と考える人もなくはありません。しかしアメリカでは戦闘機の音は「自由の音 sound of freedom」と呼ばれています。「安全はタダでは手に入らない!(freedom is not free)」のです。我々は「平和の受益者」なのです。

英国の駐在武官がいみじくも「日本は龍の頭と熊の尻尾、イギリスは熊の頭と龍の尻尾に向き合っている」、「協力し合って問題が起こらないようにするための抑止力を高めたい」と言っていたことを思い出します。実際に戦争が起きることは悲劇です。しかし家族、子孫を自由も人権もない国に住まわすわけにはいけません。日本にとっても台湾にとっても、抑止力を高めてこその平和ということをご理解いただきたいと思います。

「博多手一本」で締めくくり

陳総領事、鬼木議員の話の後、JR九州初代社長・石井幸孝氏の新刊書「国鉄」出版の紹介、若い会員3人が音頭をとっての「博多手一本」による締め、福岡市日台友好議員連盟初代会長・稲員大三郎氏の挨拶などを経て閉会した。