台北の夜市に変化 岐路に立たされる師大夜市

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狭い道路を埋め尽くす人。威勢の良い客引きの声。カラフルな雑貨。豊富な食べ物。台湾の夜市は今も昔も、台湾人の生活に密着した一種の「文化」であり、日本人観光客も楽しみにしているスポットであろう。しかしその一方で、人気の夜市では新たな問題が近隣住民に悪影響を及ぼし、社会問題化したケースも出始めた。

 

師大夜市。平日も学生らでにぎわう。
師大夜市。平日も学生らでにぎわう。

 

台北市の南側、台湾師範大学周辺に広がる師大夜市。MRT新店線の駅にも近く、週末に限らず、平日の夜も学生を中心に多くの人でにぎわう。しかしその一方で、近隣マンションの外壁には「静かな住宅を返せ」、「油・煙・騒音公害 住民は断固拒否」などと書かれた横断幕が翻る。共存共栄をめぐって住民と商店の折り合いがうまく行かず、話し合いが決裂したのだ。

 

飲食店営業に抗議する横断幕が付けられたマンション。以前は一階部分にカフェがあった。
飲食店営業に抗議する横断幕が付けられたマンション。以前は一階部分にカフェがあった。

 

そもそも師大夜市は、龍泉街と呼ばれる路地周辺に飲食店や屋台が立ち並ぶ、こぢんまりとした夜市であった。それが2000年代後半から、本来の夜市の外側に雑貨店や洋服店、飲食店などが出店し、急速に膨張。浦城街13巷には、エスニックレストラン街が出現、泰順街60巷にも数多くのカフェが開店した。2010年公開の映画「台北の朝、僕は恋をする」にも登場し、台北を代表する人気の夜市として、発展は順調かと思われた。

 

エスニックレストランが軒を連ねた路地も、現在はシャッター通りと化した。
エスニックレストランが軒を連ねた路地も、現在はシャッター通りと化した。

 

しかし、地元住民には寝耳に水の騒ぎだった。もともとは閑静な住宅街であった所が夜市の一部分にとって代わられたからだ。深夜まで及ぶ営業、それに伴う排気や騒音。家のエントランスには露天商が勝手に店を開き、自分の家にもかかわらず出入りに支障が生じた。これがほぼ毎日となれば、到底受け入れられる話ではない。後になって、師大夜市で営業する商店の多くが、本来は営業してはならない場所で出店していたことが明らかとなった。住民は2011年頃から台北市政府を相手に厳重抗議。長年黙認していた市政府側も、やっと重い腰を上げ、違法商店の摘発と撤退を促した。

 

6月17日には、師範大学の敷地に寄り添う形で違法営業を続けていた屋台群の一部が撤去された。それに先駆けた13日、台北市都市発展局辺泰明局長は、住民と商店の間で調和が保たれている台北市永康街を例に挙げ「多くの商店は午後10時には閉店し、一時間以内にゴミ処理などを行なうことで、住民の休息時間を妨げないよう配慮している」とし、師大夜市でも同様の取り組みをすることを提案。地域にあわせたガイドラインの制定も必要だと指摘した。

 

商店と住民がどう折り合いを付けるかが今後の課題だ。
商店と住民がどう折り合いを付けるかが今後の課題だ。

 

以前はよく師大夜市を訪れていたと言う20代の男性は「好きなお店が撤退したり、移転したりして、最近は(以前ほど)来なくなった」と話す。実際に、客足は最盛期の1/3になったと話す商店主もいる。現地メディアの報道では、この一年間で約150店舗が撤退したと言う情報もあり、かつては歩くのもやっとだった龍泉街の混雑も以前ほどではなくなった。シャッターが下りたままの店舗も目立つ。利用者からすれば、寂しく、何か物足りない感を受けてしまうが、夜市の華やかさの背景には、地元住人との理解と協力がなければ成り立たない現実を浮き彫りにした。今後師大夜市がどのようになっていくのか、注視していく必要があるだろう。