九州・山口地区僑務委員・海澤洲さんインタビュー

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蔡英文総統と並んで

記者:九州・山口地区の新しい僑務委員として、昨年5月14日~17日の「108年僑務委員会議」に出席されたそうですね。

海委員:はい。全世界から集まった200人余りの委員と意見を交換し、政府の方針も聞いてその内容を昨年秋に駐福岡総領事館で報告しました。

記者:我々日本人には、僑務委員会及び委員の役割が良く理解できていませんが、分かりやすく説明して頂けますか?

海委員:僑務委員会を作ったのは中華民国初代大統領の孫文先生で、1926年に設立され、1932年に行政院の直属機関に改編されました。主たる任務は海外に居住している華僑や華人など在外同胞に係わる業務の所管です。

記者:具体的な役割は何でしょうか?

海委員:僑務委員会は、台湾の行政院に属する委員会の1つで、日本の「省」レベルにあたるものと考えて頂いて結構です。中華民国ができた時、孫文大統領が「力のあるものは力を、知恵のあるものは知恵を、お金のあるものはお金を出して政府を支えて欲しい」と言ったことが始まりです。現在では全世界で200人余りの人々が任命されています。日本をとってみると大使館や領事館のある東京、横浜、大阪、福岡、那覇、札幌から合計10人程度が任命されます。各地の華僑同胞の政府に対する要望を伝え、逆に政府の意向を世界の同胞に正確に伝える役割を果たしています。

記者:僑務委員の任期や会合の頻度はいかがですか?

海委員:任期は3年で1回だけ再任が認められていますので、3年~6年ということになります。全体会合は年に一度台北で開催され、総統も出席します。総会の他に教育、経済、交通、衛生などの分科会に分かれていて、専門的な話し合いが行われます。

福岡で全体会議の報告をする海澤洲委員

記者:去年の会合ではどんなことが議題になりましたか?

海委員:やはり大きい問題は中国との関係です。現在ある意味で台湾にとって良い風が吹いていると思います。現在は米中貿易戦争の中にあり、アメリカが中国製品に多額の関税を課し始めたことにより、アメリカに向けた中国製品の魅力が薄れてきています。この現象は中国に進出している台湾企業に対しても影響を与えています。

台湾政府は、いま新南向政策とともに、台湾企業に帰国投資奨励政策をとっており、多くの台湾企業が政府の補助金を活用して台湾に帰国投資をしています。昨年の帰国投資補助額は2,500万台湾元を突破しました。

現在の中国では労働賃金が上昇を続ける一方で、それに見合う労働の質が保証されているとは考えにくい状況にあります。出来れば多くの台湾企業が帰国し、台湾の雇用を安定させ、誠意のある台湾政府の下で心のゆとりをもって仕事をして欲しいものです。

多くの台湾企業は技術的にも資金的にも既に世界水準に達していますし、台湾には有能な人材や十分な資金があります。台湾の政府と企業が研究開発を大々的に推進し、産業の更なる高度化を目指し、労働集約型から資本・技術集約型に変身してもらいたいと思います。

記者:外交問題でも中国の台湾に対する締め付けは目に余りますね。

海委員:はい。外交において台湾が直面している重要問題は、中国による執拗な虐待行為です。最近のドミニカと中国との金銭外交による国交樹立、それに伴う台湾との断交は台湾出身華僑の生活基盤を大いに揺るがすものでした。今回の部会で、ドミニカ華僑は、国交断絶時の同胞の協力と団結がいかに大切であったかを強調されました。中国の金銭外交と一帯一路の名で行われている発展途上国に対する借金漬け外交は直接的、間接的に台湾の途上国外交にブレーキをかけ続けています。更に中国は台湾のWHO(世界保健機関)及び WHA(世界保健会議)への参加をも阻止しています。既に経済大国になり、サーズの経験から『病原菌は難なく国境を超える』という経験を持っているにもかかわらず、このような行動をとり続けることは、世界に対する背信行為だと言わざるを得ません。しかし中国の行動を批判するだけでは台湾の安寧や経済の発展に繋がりませんし、何の進歩もありません。我々台湾華僑は居住する国の人々との間に更に強い信頼関係、緊急連絡網を築き上げ、それを継続し続けることが必要です。

幸い私が居住する日本と祖国台湾は、国交が存在しないとは言え、極めて良好な関係にあります。中国が台湾に対して「武力攻撃も辞さない」という態度を示す中で、日本のメディアは民主主義を無視する中国の姿勢を批判していますし、日本人の大半は完全に台湾の味方になってくれていると思います。

記者:華僑の皆さんが居住する国の人々との良好な関係を継続するためには、若い人同士の関係構築・発展が大事だと思います。そのためには、華僑の子弟とその国の子供たちが同じ学校で一緒に学ぶことも大事ですね。

海委員おっしゃる通りです。我々はこれまでも世界各地に中華学校を設立・運営してきました。日本でも東京、横浜、大阪等にありますが、いま福岡でも設立準備を進めているところです。しかしこれには、施設、教員、運営ノウハウ、資金など、いろいろなことが揃わなければなりません。「力のあるものは力を、知恵のあるものは知恵をお金のあるものはお金を」と言って僑務委員会を発足させた孫文先生の言葉を思い起こして、台湾人が一致団結・協力できるかどうかが問われていると思います。

記者:私は九州のことしか知りませんが、台湾の方々の集まりは沢山あるものの、あまり横の繋がりが無いようなことも聞いていますが・・・

海委員:確かにそのような側面もあります。例えば、中華総会、台湾同郷会、西日本学友会、九州台湾商工会、宗教関係の集まり、音楽の会合、留学生会などがあります。これらの集まりは勿論スタートした時のいきさつも違うし、それぞれが特徴を持ち、各分野で高いレベルで活動しています。しかし、いざという時には台湾人として集まり、協力される方々です。

その取りまとめをするのも僑務委員の大事な役目の一つだと思っています。コロナウイルスの問題が落ち着いたら、ぜひ一つ一つを訪ねて、意見を聞いたり協力をお願いしたいと思っています。もちろん日本の方々との意見交換も大事な仕事の一つです。

記者:分かりました。自由、民主、法治主義など、我々日本人と価値観を共にする台湾は日本にとっての大切なパートナーです。また華僑の方々のお世話をし、取りまとめにあたる僑務委員会の役割についても理解できました。今後のご活躍を期待しております。今日は長時間、有り難うございました。

僑務委員全員で記念撮影