(インタビュー)『緑の歌-収集群風-』で受賞 漫画家高妍さんが語る、作品への情熱と異国生活

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「このマンガがすごい!2023オトコ編」第9位を受賞した高妍氏

初めての連載作品『緑の歌-収集群風-』で「このマンガがすごい!2023オトコ編」で第9位に輝いた台湾育ちの漫画家、高姸さん。イラストレーターからスタートし、その実力は日本の出版社にも認められ、『緑の歌-収集群風-』でこのほど漫画家デビューを果たした。高姸さんが綴る時空を超えたラブレターは、日本と台湾で話題となって大成功だった。東京に拠点を移し、日本での漫画家活動を本格的に始動した高姸さんは、自分が漫画への情熱と異国生活の想いを語った。

話題作「緑の歌-収集群風-」

創作に伴うのは「慣れられない孤独感」

―髙さんにとってちょうど半年が経た東京生活。当時東京に引っ越すと決めたお気持ちをお聞かせください。

 もともとはこんなに急いで移住するつもりでありませんでした。短期宣伝を終えて一旦台湾に戻ってゆっくり日本のビザを申請しようと思っていましたが、銀行口座の問題を解決するために在留資格をどうしても取得しないといけないので、急いでビザを取ってから住所も決めました。

ビザの申請や家探しで大変でしたが、周りの方々が手伝ってくれたおかげでやっと落ち着いてきました。今は精一杯仕事しながら、東京暮らしに楽しんでいます。

―高さんは大学時代、交換留学生として約一年間沖縄に住んでいました。東京と沖縄の生活を比べてどちらのほうがお好きですか。

高 今東京に暮らしている自分はもう社会人になったので、立場が違うから、沖縄での留学生活とは比べられないと思います。どちらでも好きです。

でも面白いことに、私にとって沖縄と台湾での生活はあまり変わらない気がしました。気温も湿気も街の雰囲気も似ているから、不慣れとかあまりありませんでした。強いて言うなら、沖縄と台湾の違いは使っている言語が違うだけかもしれません。

 

―よくインターネットで日本に住んでいる台湾人が「自分は孤独だ」と嘆いています。漫画家という職業は、孤独感がさらに強いイメージがあるが、高さんのお気持ちをお聞かせください。

 異国に住んでいる人は必ず孤独を感じるかもしれないですが、創作者にとってその孤独感は不可欠なものだと思います。つまり、いる場所とは関係なく、創作する時一人になる時間が必要です。

漫画家にとって漫画を描くということは、一人だけの長距離走です。いつも一人で深夜まで作品を描き続けていて、孤独感はずっと強く感じています。しかし、サポートしてくれている編集さんと出版社と読者がいるからこそ、たくさんの力をいただいて、頑張ってこられると思います。

自らの経験を活かして物語を描く「自分だけ作れる作品」

―漫画家になるきっかけをお聞かせください。

 高校生の時、漫画月刊『ガロ』と出会って、つげ義春さんや丸尾末広さんをはじめ、古屋兎丸さんや浅野いにおさんや押見修造さんなどの漫画家が好きになりました。当時読んでいたメジャーの作品と全然違うから、「漫画には限界がない」ということを気付きました。

高氏が声をかけた書店

漫画は私にとってとても重要なもので、何度も漫画に救われました。だからこそ、自分はまだ漫画を描く資格がない、能力が足りないとか思っていて、なかなか始められませんでした。

大学生になってから、初めて岡崎京子さんと近藤ようこさんの漫画を読んで心惹かれました。もし私もこんなに素晴らしい作品を描けるようになりたいなら、今から始まらないと遅すぎると気付き、自分は本当に漫画家になりたいということを決心しました。

―漫画家になるために、どのように頑張っていたのかをお聞かせください。

 私は子供の頃からずっとデジタルで絵を描いてきたので、よくSNSで同じ絵を描くことが好きな子たちと交流していました。

大学の時、日本語の漫画を読めるようになりたいから、日本語を勉強し始めて、Twitterも使い始めました。台湾でTwitterを使っている人はあまりいなかったので、日本人の読者のために日本語で発信したり、絵を投稿したり、初めて日本に旅行しに来た時に、自費出版のイラスト集を持って、中野にある「タコシェ」と池袋、目白の間にある「ポポタム」という個人の書店で委託販売させてもらいました。今でも二つのお店と連絡を取っているし、個展もやらせていただき、大変お世話になっています。

高はイラストの仕事も続けている

その後徐々に日本の出版社の方々から仕事のお誘いをいただき、イラストレーターになりました。今「コミックビーム」で漫画が描けるきっかけも、自分のTwitterに投稿したイラストがたまたま今の担当さんに見つけられたからです。そして幸運なことに漫画家にもなりました。

―『緑の歌-収集群風-』の発想についてお聞かせください。

 私の作品は、実体験から着想した物語の方が多いです。主人公・緑が好きな音楽や、観に行ったコンサート、そして暮らしていた街も私と同じです。自分の経験や身の回りの出来事じゃないと、うまく表現できないと思います。

高氏の作品には自らの経験談がたくさん含まれる

例えば、もし私にあるアメリカに暮らしている女性のストーリーを描かせれば、きっと上手く描けないと思います。経験したこともないし、もし研究もせず勝手に想像に任せて描いてみたら、その背景で生まれ育った人達に対してとても失礼なことだから、自分の経験から着想した方が一番良いのではないかと思っています。

次の作品は「私の運命の作品です」

―4月からは月刊『Comic Beam』で新連載を始める高さん。作品の内容について少しだけでもお聞かせください。

 次の作品名は『隙間』です。台北に暮らす女子大生の主人公には、いろいろな出来事で、台湾を離れて沖縄へ旅を立ちます。自分の実体験も反応しつつ、主人公・楊洋の目で台湾人の歴史と心の傷を描きます。

―この作品のきっかけをお聞かせください。

 大学の「台湾人権課題」という選択科目で、228事件のことについて再び深く勉強しました。もちろん中学校の時教科書を通して勉強したことがあるし、台湾人なら誰でも知っている歴史の傷だと思いますが、もう一度義務教育ではなく、自分の力で事件の結末を勉強したら、教科書がすごく片面だったということにようやく気付き、震撼しました。この事件の大きな犠牲と台湾人の苦痛、考えれば考えるほど悲しく、涙も出てきてしまいました。

今回の作品を通して228事件、社会運動、政治と民族自決などを語りたいです。それは私が台湾人としての使命のではないかと思っています。人生の中にいつか絶対描くような、運命的な作品です。