「27°C 世界一のパン」でリン・チェンシェン監督が伝えたかったこと~東京国際映画祭「台湾電影ルネッサンス2013」

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リン・チェンシェン監督
リン・チェンシェン監督

第26回東京国際映画祭が10月25日、成功裏のうちに閉幕した。「東京サクラグランプリ」はスウェーデン映画「ウィ・アー・ザ・ベスト!」に決定した。

アジア映画では、「アジアの未来」(新鋭監督コンペティション)、「ワールド・フォーカス」(旧「アジアの風」と「ワールド・シネマ」合体企画)、そして「台湾電影ルネッサンス2013」として、東京国際映画祭ならではの焦点の当て方でその存在意義を大きく世界にアピールした。

会場の様子
会場の様子

「台湾電影ルネッサンス」ではベテラン監督のカムバック映画として話題になった「27°C-世界一のパン」を鑑賞した。リン・チェンシェン監督は「浮草人生」(TIFF96ヤングシネマ・コンペティション東京シルバー賞受賞作)でかつて東京国際映画祭を沸かせたが、今回は9年ぶりに、若くして伝説となった実在のパン職人の修業と成長の物語を描いて存在感をアピールした。

貧しい家に生まれ、父を亡くしたウー・バオチュンは、1人の裕福な少女と出会い、彼女が食べていた“あんパン”の虜になる。少女は転校してしまうが、このことにより、バオチュンはパン職人になることを決意。その後、成長した少女と再会し、恋愛。次第に腕を挙げ、やがてパン職人世界一を競う大会で勝利を収める、といった内容。

「貧しい職人が努力して世界一になる」「少女との純愛」「パン職人」という、いってみれば一見、オーソドックスなシチュエーションとありふれたテーマを、今、作品として発表した意味、狙いについて、リン・チェンシェン監督は、上映後の観客とのQ&Aのなかでこう話した。

リン・チェンシェン監督
リン・チェンシェン監督

「台湾社会は大変な学歴社会で、学士、修士、博士になって成功するという価値観が支配していました。一方で、田舎から都会に出て来た貧しい若者たちは皆、ファッションはダサいし、方言はあるしで苦労していました。社会は分業しなければ成立しません。低いところにいる人たちをバカにするのではなく、尊重し、彼らが夢を持って生きていけるような社会になればいい。いろんな産業で働く若者に夢を捨てないで欲しいと伝えたかった。日本にも」

50代の台湾映画のファンだという女性は上映後、「見終わった後。パンが食べたくなりましたね。映画を見て優しい気持ちになりました。心が和らぐというか。この映画を選んで正解でした」と話していた。