66年振りの両岸首脳会談が実現

0

 

台湾の馬英九総統と中国大陸の習近平国家主席は11月7日、シンガポール市内のホテルで、首脳会談を行った。これは、1949年に中華人民共和国が成立し、蒋介石の中華民国が台湾に移って以来初めてのことであり、両岸(台湾と中国大陸)関係に新たな歴史を刻んだといえる。

歴史的な握手をする馬英九総統と習近平国家主席(提供:中央社)
歴史的な握手をする馬英九総統と習近平国家主席(提供:中央社)

国共内戦から66年の時を経て実現に至った直接対談で、馬総統は青のネクタイ、習国家主席は赤のネクタイを締めて現れ、満面の笑みで80秒に渡る長い握手をしてみせた。そして、この歴史的な現場に立ち会おうと、世界各国から大勢のメディアが駆け付けた。日本でも、翌8日の大手6社の新聞全てが馬習会を1面で大きく取扱い、中面でも特集を設けるなど、高い注目度が見受けられた。

日本の大手新聞も各社が馬習会を1面で取り上げた
日本の大手新聞も各社が馬習会を1面で取り上げた

台湾では同会議を、双方の首脳の名前をとって「馬習会」と呼んでいる。馬習会で習国家主席は冒頭、「両岸関係に歴史的な1ページを開いた」と意義を強調。馬総統はこれに対し、「両岸関係は今が最も平和な段階にある」と語り、自ら進めてきた対中融和路線の成果を誇示した。また、双方は主権を認め合っていないため、お互いを「~先生(~さんの意)」と呼び合うなど、平等な立場を保持した。なお、約1時間にわたる対談の中で、共同声明や平和協定などの署名が求められる活動も行われず、両岸関係において実際にどのような効果があったのかは依然不透明であり、各方面で異なった見解が出されている状況である。

馬習会については、馬総統がこの2年ほど、絶えず中国側に「期待」を投げかけており、昨年11月の北京APECにも出席を要望したが、国際会議の舞台での台湾の指導者の出席に中国側が難色を示して頓挫した経緯があり、馬総統にとっては念願の対談となった。

 

 

馬総統の考える馬習会の意義

馬総統は馬習会後に記者会見を行い、対話内容を詳しく説明した。馬総統によると、対話では、両岸が対話の基礎とする「92年コンセンサス」の強化や、交流の拡大、ホットラインの設置など5つの主張を打ち出し関係強化に向けて協議したという。

また、13日午後、再度内外に向けての記者会見を開き、馬習会の目的と意義、並びに内外の反応などについて国民に報告した。馬総統は馬習会の意義として、「92年コンセンサス」に達して23年後に初めて両岸の指導者が同時にこのコンセンサスを認め、「92年コンセンサス」が両岸共通のもので、カギとなる政治的基礎であると確認した事、両岸双方のそれぞれの指導者が対等かつ尊厳が保たれた形で話し合える新たなモデルを築いた事、そして台湾が初めて中国大陸の指導者に対して直接中国大陸側の台湾に対する軍事的配備と国際社会における台湾の活動空間に関する問題をぶつけ、中国大陸側に具体的で善意ある行動をとるように要求した事を提示した。軍事的配備については、馬総統は中国大陸が台湾向けに配備している弾道ミサイルを後退させるように求め、習国家主席は「台湾に向けたものではない」と返答したという。

さらに23日には、米大衆紙「USAトゥデイ」に中華民国総統として寄稿。会談の実現は両岸が平和的に争いを解決する手段を構築したことを表すとした上、双方の指導者が平等で尊厳を守る新しい形式を生み出したと強調。「一つの中国」の概念は「中華民国を指す」との見解を重ねて表明した。このほか、会談で馬総統は台湾が国際的な活動空間で中国大陸の圧力を受けていることを初めて直接習氏に訴え、中国大陸側の善意ある具体的な行動を求めたとした。

 

 

 

台湾国内、そして世界各国からも様々な声が

国民党立法委員団は8日、馬習会に関する世論調査の結果を発表し、46.1%が会談を「支持する」と答えたと明かした。また、政界からは国民党が朱立倫主席の話として会談の歴史的意義を強調。その上で、両岸を利するいかなる平和的交流を歓迎する姿勢も表明した。一方、現段階で来年1月の次期総統選の当選が確実視されている民進党の蔡英文主席は7日、遊説先の雲林県で「国際舞台で政治的枠組みを持って両岸関係における人民の選択を制限しようとした事は、会談が達成した唯一の効果だ」とコメント。また、「民主的手続きを踏まず、民意の支持も欠いた政治的枠組みを、台湾の人民が絶対に受け入れない」などと批判したほか、「私のように大多数の台湾人も大いに失望したと信じている」と遺憾の意を示した。海外からの声としては、マット・サルモン米下院議員が10日に訪台した際、外交部で台湾メディアらと面会し、中国大陸が台湾の国際社会への参加を拒否している事について「ばかげている」と述べ、米国は「一つの中国」政策を見直す時期だとの考えを語った。

なお、台湾メディアによると菅義偉官房長官は9日の定期記者会見で、馬習会について問われ、「台湾は重要なパートナーのまま。日台関係に変化はない。日本政府は長い間、両岸の平和問題解決についてはタッチしないという立場をとっている。今後は、両岸関係の動きが平和と安定をもたらす事に期待している。情勢の変化に細心の注意を払いたい」とした。

 

評価に賛否両論あるが、このほどの馬習会が世界各国から注目を浴びたことで、世界が台湾の政治に対する意識を高めたことは間違いないと言える。これにより来年1月の台湾次期総統選挙にも多くの注目が集まっており、次の総統が中国大陸とどう付き合っていくかが今後、キーポイントとなるだろう。

 

 

―コメント―

三三企業交流会 江丙坤会長
三三企業交流会 江丙坤会長

三三企業交流会 江丙坤会長

日本側は、台湾は中国に近づきすぎるのではないかといった心配もあると思うが、両岸の良好関係は確実に日本のプラスになる。馬総統は総統になる前より、「台湾海峡の平和と安定は台湾のためのみならず日本のためでもある」と強調しており、「私はピースメーカーになる、トラブルメーカーにはならない」と述べていた。私は両岸の平和はアジア全体にも平和をもたらすと考えている。中国の学生や観光客が台湾に来ると、“自由、文化、規律を守る”など、良いことを学んで帰る。長い目で見れば台湾が中国の民主化を促進させ、良い影響をもたらすだろう。

 

 

東京大学東洋文化研究所 松田康博教授
東京大学東洋文化研究所 松田康博教授

東京大学東洋文化研究所 松田康博教授

このほどの馬習会は外から見れば、馬英九政権は大変な成果をあげたように見えるが、国内からみれば、馬政権の不人気は続いている。馬習会で一時的に支持率を上げたが、それもすぐ元に戻った。馬総統は任期中、中国との関係を良くしようとしたせいで、国内からは嫌われてしまった訳だ。私は中国と台湾には“自立と繁栄のジレンマ”があると思っている。台湾の自立を強調してしまうと、中国との関係が緊張しがちになる。そうすると経済的な繁栄に問題が出てくる。ただ、繁栄を求めて中国に接近すると、中国に浸食され台湾の自立を損なうことになる。自立と繁栄を両方維持するのは台湾にとって一番難しい課題である。

 

 

用語解説✎

92年コンセンサス

台湾と中国大陸は1992年11月、「両岸が『一つの中国』の原則を堅持するが、その概念の認識に相違があるところにつき、口頭声明の手段で各自が解釈を表明できる」との内容で合意している。これがすなわち「九二共識、一中各表(92年コンセンサス、『一つの中国』の解釈を各自が表明する)」である。(台北駐日経済文化代表処HPより抜粋)

返事を書く

Please enter your comment!
Please enter your name here