ウイルスを19日間で制圧~台湾屏東県の取り組みと経緯

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村全体の消毒作業(写真提供-屏東県政府)

台湾屏東県はこのほど、19日間でデルタ株を制圧した経緯を同県の広報及び国際事務部が公表した。

2020年初頭にCOVID-19によるパンデミックが発生して以来、世界は未だ、このウイルスの脅威に晒されている。しかし、新型コロナウイルスはさらに進化し、変異を繰り返している。2021年には、さらなる伝染力をもつデルタ変異株が確認された。既に142の国に拡散している。周囲から離れた島国である台湾の屏東県においても、今年の6月にデルタ株の侵入と拡散が確認された。それでも、屏東県政府は迅速な決断と対応を行い、強化措置を執った。そして僅か19日間でこの脅威のウイルス、デルタ変異株を制圧した。この成功例は世界でも珍しい。

現地のコミュニティーでPCR検査会場を設置(写真提供-屏東県政府)

屛東県は、台湾の最南端に位置する県であり、県内の「墾丁」は最も外国人観光客に愛される観光地だが、このことで屛東の名は遠くまで知れ渡ることとなった。

今年6月23日、屛東県枋山郷に初の感染者が確認された後、すぐに10人を超える新規感染者が確認された。当初、疑われる感染経路は三つあり、一つはペルーからの入国で感染が確認された孫と祖父(母)。屛東県政府は慎重に検体を採取し、ウイルス遺伝子配列解析を中央流行疫病指揮センターへ要請した。台湾国内でこのような要請があったのは屛東県が初めてで、世界が恐れるデルタ株が検出されるとは予想だにしなかった。

「あらゆる努力をし、必ず感染拡大を阻止しなければいけないと、ただその思いで一杯だった!」と、潘孟安県知事は当時、複雑な心境で語った。この台湾で、当初変異ウイルスの感染拡大予防対策について参考にできるものはなにもなかったし、医療資源についても都会とは比べものにならない環境で、最南端の屏東でデルタ株が一度拡散すれば、台湾全体に一気に広まる可能性が高かったためだ。この突然の襲来は、静かな海辺の漁村の人々に多大な影響を与えた。

潘孟安知事は楓港コミュニティーでアナウンスし、住民の皆さんに向けて、感染防止策の徹底と全員PCR検査を呼びかけた(写真提供-屏東県政府)

屛東県潘孟安知事と県政府チームは即刻、「この強敵に勝つには我々がこのウイルスよりも速く動くしかない」と防疫措置強化を執ることを決定した。まず、現地の楓港(フォンガン)村と善餘(サンイー)村二つの村のスーパー、コンビニ、飲食店、(伝統)市場などは6月26日から三日間の営業停止と全面的な環境消毒作業を行い、次に住民にもできる限り家での自粛を呼びかけ、更に地域の全員を検査するためPCR検査会場を設置、最後に「小ロックダウン(村封鎖)」により人々の交流が原因の感染を減らそうとした。

「小ロックダウン」を実行するには住民の生活問題の解決も必要のため、県政府チームを動員して、約1000人分のティシュペーパー、缶詰め、麺類、白米、クッキーなど支援物資セットを夜通し準備して、自粛中に食料品が不足にしないよう同26日に朝一で人々の手に届けた。県政府と枋山の距離は100kmもあるため、常時状況把握と対策が取れるよう、同日午後には枋山で前進指揮所を設置した。同時に潘孟安知事は、中央政府に1200回分のワクチンの追加供給を要請した。また、村民への手厚い保護のためにワクチン接種計画を立て、早急に接種できるよう急いだ。さらに村民を安心させるため、自ら現地に赴き村民の前で話をした。

物資搬送に現地の農業用車を利用(写真提供-屏東県政府)

一時はコントロール可能と判断するも、6月25日に何十㎞離れた枋寮郷の老夫婦が感染経路不明な新規感染者として確認された。現地に一つしかない病院(枋寮病院)は外来診療を中止せざるを得ず、再び県内に緊張が走った。屛東県庁チームは枋山郷専用に「枋山模式」という対策を取り、感染経路を断つ為、枋寮病院の周りにPCR検査の会場を多数設置し、この念入りな対処でウイルスと対抗した。その間、県庁チームは「料敵従寛(敵情過大視)」の原則でしっかりとした疫学調査を行い、在宅隔離の基準拡大、全域のPCR検査の実施、ワクチンの接種、及び「小ロックダウン」による営業の停止、人々の流れの抑制、周囲の環境清拭消毒の強化措置を同時に執った。その中で最重要とされたのは、6月24日の枋山郷全域におけるPCR検査会場の設置であり、設置してからPCR検査終了日、7月2日までの計9日間で、合計一万人超のPCR検査を行ったところ、全員陰性だった。感染拡大に至らなかったことに県庁チームはほっと胸を撫で下ろした。

現地の学校でPCR検査会場を設置(写真提供-屏東県政府)

この対応の結果、6月23日の初の感染者確認から7月11日までに在宅隔離されていた667人は全員隔離解除となった。屛東県は19日間で台湾初の新型コロナウイルスデルタ変異株による感染拡大を阻止し、収束させたのである。

先日、台湾中央研究院生物医学科学研究所兼研究員の何美郷氏はテレビのインタビューで「台湾のデルタ株遭遇」についてこう話した。「台湾で発生した『屛東での経験』は、国際学術研究に有意義な事例であり、世界にとって参考となりえる事例でもある。より多くの人が知れるよう、国際的な学術論文にするべきである」と。また、屛東県政府の迅速な判断と行動により感染の拡大を防止できたことを「実に素晴らしい」とコメントした。「他山之石、可以攻錯(よその山から出る石を用いてわが玉を磨くのに足ること)」のことわざの通り、このデルタ株との戦いの経験を活かし、屛東の経験は台湾の他の県、市にとって手本となるだけではなく、デルタ株に対抗する国際社会の参考になればと思う。人類を翻弄するデルタ株を阻止する方法が未だ見つからない現在、屛東県の感染拡大防止の成功例は非常に貴重である。