台湾政治の多様性への転換(一人の日本人が見た2024年総統選挙)

0
台湾の選挙集会風景(2つの会場を合成)

中国との緊張や世界一の半導体工場の日本進出で強い関心を持たれている台湾で、1月13日に四年に一度の総統選挙が行われ、日頃から台湾に関心を持つ福岡市のK氏が訪問し、市民目線で感じたことを語った。

同氏は政治家でもジャーナリストでもなく、第7代台湾総督・明石元治郎(福岡出身)の業績を学ぶ研究会などに顔を出す「台湾好きの一人」に過ぎないが、それだけに既成観念にとらわれない素直な視点で台湾を感じることができたようだ。

記者:今回は総統と国会議員のダブル選挙でしたね。4年前も視察されたそうですが、前回との違いは感じられましたか?

K氏:民進党の頼清徳副総統の勝利は世論調査通りでしたが、蔡英文総統が前回獲った800万票より大きく減らして558万票でした。対抗する国民党の侯友宜氏は467万票、民衆党の柯文哲氏は369万票という結果でした。

私個人としては、台湾に来るまで柯文哲氏がこれほど伸びるとは思っていませんでした。

記者:柯文哲氏の善戦の理由はどんなところにあると思いますか?

K氏:柯氏の民衆党は、日本では「第三党だし、そんなに票は取れないのではないか?」と言われていましたが、集会を訪れてみると民進党に劣らずの大観衆で、なかでも若い人が多く、大声で応援している姿を見て考えが変わりました。元台北市長だったので台北での人気は分かりますが、それ以外の地域でも票を獲っています。SNSなどを使った情報発信力が3人の中では一番強かったと思います。

このままいくと「四年後は侮れなくなる」という意見がある半面、「後継者育成は行えているのか」との声もあるようです。

記者:各党(候補者)の中国との向き合い方とそれに対する人々の反応をどう感じましたか?

K氏:ひとことで言うと3人とも「現状維持」です。

日本では頼氏を独立志向と言っていますが、頼氏も民進党も「独立」という表現はなかったかと思います。それは中国が「頼氏は独立分子」だと煽っているのを日本のマスメディアがそのまま使っているのだと思います。

現場で感じたことは、民進党も国民党もどちらをも良しとしない人達が民衆党に流れているのではないかと思いました。

中国寄りで飲み込まれてしまって、香港のようになってしまうようなのも嫌だし、かと言ってアメリカに近付きすぎて中国との関係が悪化して戦争になるのも困る。戦争にならなくても、武力で脅されたり貿易を停止され続けるのも嫌だ。どちらも嫌だという人達が、特に若い人に多いのではないでしょうか。中国とアメリカのどちらにも偏らず、あくまで中立で、現状維持で行きますよという民衆党の主張が人々の気持ちに合い始めているのではないかという気がします。

また日本では国民党の馬英九前総統がドイツのメディアに対して「習近平氏を信用するべき」と言ったことが話題になっていましたが、総統選挙の応援に彼が出てくる場面は全くありませんでした。国民党も「馬氏の力を頼らなくてもいい」と思ったのか、彼が出てくると、逆に票が取れなくなると思ったのか、最後の大集会にも来ていなかったですね。

記者:日本の選挙との違いをどう感じましたか?

K氏:日本は「議院内閣制」で、首相の直接選挙はないので一概に比較することはできませんが、台湾のエネルギーには驚かされました。人々の熱気というか、街の盛り上がりはとても比較できるものではありません。

どこもかしこも選挙ポスターが貼ってあり、テレビも選挙一色です。日本では選挙期間中でもそこまではないですね。台湾では立候補者は政策の中身を訴えていました。外交政策はこうで、こういう国にします。経済はこうします。皆さんの生活はどうなります。と言うような具体的なことを訴えるので、有権者には分かりやすいと思いました。

記者:政党や候補者に対するマスコミの捉え方はどうですか?

K氏:台湾では各党の良いとこを沢山報道しているようでした。この人はこういう事をやってる、こういう所に力を入れようとしている。こういうことを国民の皆さんにお願いしてるとか、そういうプラスの面が報道されているような気がしました。

記者:写真を見ると、小さい子の手を引いて、子連れで集会に来ている人もいますね。

K氏:そうですね。特に民衆党の集会では、若い家族連れや、学生同士がイベントに参加するような形で応援に行く、というようなのが印象的でした。

子供連れも多かった各党の応援集会

記者:選挙のやり方で日本と一番違っていると感じた点は何ですか?

K氏:応援集会ですね。スタジアムのような大きい会場を借り切ってロックバンドなどが来て前座で歌ったり生演奏します。最後には野球チームが優勝したときのようなセレモニーでエアが吹き出て、スローガンの書かれた花吹雪が舞う演出もあります。

照明とBGMも本格的なものです。演説のストーリーに合わせて悲しいメロディもあったり、盛り上がる爆音になったりですね。BGMが聴衆を引き付けるのにはすごく驚きました。応援の道具も会場で配られます。聴衆は携帯のライトを点けて、音楽に合わせて左右に降ったりとかします。それを大型スクリーンが両脇にいくつもあってクレーンカメラで撮った映像を流すとまた会場が盛り上がります。福岡PayPayドームのイベントに参加しているような気分ですね。

記者:投票についてはどうですか?

K氏:台湾には不在者投票のような制度がないようです。国内に住んでいる人は本籍地に戻るし、海外からも帰国して投票するので、投票日が近付くと国民大移動が起こります。また「なんとなく投票」というのでなく、しっかり政策の中身を知って投票しているような印象を受けました。これが投票率の高さ(71.86%)にもつながっているのだと思います。

記者:その他に受けた印象は?

K氏:一つは民衆党に見られる第三勢力の台頭です。直接選挙の導入以来、民進党と国民党が8年ごとに繰り返してきた政権交代に民衆党が多様性の風穴を開けつつあると言っても良いのではないでしょうか?

もう一つは、これまで票がとれていた「時代力量」が国会議員の票を取れなかったことです。時代力量の主力議員が他の党に移ったということもありますが、学生運動的な主張から抜け切れてないために国民の信が得られなかったのではないかという声も聞かれました。

この2つは「台湾政治の多様性への転換点」を示すものかも知れませんね。

記者:有り難うございました。

結果を報じる新聞を読むK氏