満員御礼!映画「建築家・郭茂林という男」渋谷で初上映

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映画館ユーロスペース2
映画館ユーロスペース2

第25回「東京国際映画祭」の公式出品作品「空を拓く~建築家・郭茂林という男」が、2月2日、「渋谷ユーロスペース」で初上映された。台湾にゆかりのある関係者たちの努力が実を結んだ形だ。

酒井充子監督
酒井充子監督

ドキュメンタリー映画「空を拓く」は、台湾出身の建築家郭茂林氏の晩年に密着した長編ドキュメンタリー映画である。郭氏は、1921年生まれ。日本統治時代の台北工業学校(現在の国立台北科技大学)で建築を学び、1940年に恩師の勧めで20歳で来日し、国鉄勤務を経て東京帝国大学に就職、やがて東大建築学科の助手として岸田日出刀、吉武泰水教授に師事し、約20年間建築を学びながら幅広い人脈を構築した。その経歴が認められて、日本初の超高層ビル「霞が関ビル」建設チームのとりまとめ役に抜擢された。これを機に才能が開花、世界貿易センタービル、新宿副都心の都市開発、池袋サンシャインビル60などの建設に関わったほか、台湾でも新光三越ビルの建設や台北市の都市開発で力を発揮した。

酒井充子監督は、映画制作の動機を「映画の発起人である加藤美智子さんにお電話をいただき、こういう人がいるんだけど撮りませんか?という誘いを受けたため」と答えている。酒井監督はその後、郭茂林氏と交流するなかで「建築はわからないけれども、郭茂林さんがどういう人なのかだったら撮れるかもしれない」と考えるようになり、2010年の夏から秋にかけて撮影を行った。やはり、見どころは郭氏の帰国シーンだ。子ども時代から青春時代を過ごした学校や街を訪問したり、李登輝・元総統を訪ねたり。学生たちに建築・設計の指導を行ったり。どこに行っても歓迎される郭茂林氏……。

立見の観客も出た
立見の観客も出た

実は、1月17日、一般公開に先立ち、渋谷で関係者を集め試写会が開かれた。この映画の成功を願う台湾人は少なくない。こうしたなか、2月2日、渋谷「ユーロスペース2」にて待望の初上映が行われた。午前10時には観客が続々と集りはじめ、144席は瞬く間に満席となり、上映開始前には立ち見客が多数出るほどの盛況ぶりとなった。

企画の加藤美智子さん(中)と知人の三遊亭若圓歌さん(左)
企画の加藤美智子さん(中)と知人の三遊亭若圓歌さん(左)

 冒頭、酒井監督は「この日を迎えられましたことを関係者の方々のお力添えがあったからこそのことです。実は席が埋まるか心配していましたが足りなくなってしまい、申し訳けありません。どうかごゆっくり、ご覧ください」と挨拶した。

 85分間の上映後、酒井監督が再び登壇し、質問の時間が設けられた。ある観客は、「撮影で苦労したことはなんですか」と質問。対して酒井監督は「郭さんは台北での撮影時間が限られているなか、歯医者に行かれたりして、困りました」と述べると観客席から笑いが起きた。

観客の感想を聞いてみた。40代の男性は、「こういう方がいらっしゃって日本と台湾の高層ビルを作っていたことを知り、驚きました。仕事で信義区によく行きますが、先生が作られたということで感慨深かったです」と話した。また、ある30代の男性は、「私の祖父とだぶって見えました。やはり考え方がブレないでずっと一貫して通されたところがすごい。貿易会社にいますが、酒井監督にセミナーの講師をお願いした関係で今日は来ました。私の妻も台湾人ということで台湾とは深いお付き合いをさせていただいています」と述べた。

上映運動を地道に行って来た関係者の表情も晴れ晴れとしていた。