【台湾ニュース】「第12回村上春樹国際学術シンポジウム」台湾・淡江大学で6月17、18日に開催 曽秋桂・同大学村上春樹研究センター長に聞く

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取材に応じる曽秋桂・淡江大学村上春樹研究センター長

台湾の名門私大である淡江大学(新北市淡水区)の村上春樹研究センターは6月17、18両日、同大学内で2023年第12回村上春樹国際学術シンポジウムを開催する。村上春樹氏の作品は1980年代から台湾で翻訳され、人気が高い。同大学では村上作品に着目、2014年、大学内に村上春樹研究センターを設立した。その前から毎年、国内外から研究者を招いて村上春樹国際シンポジウムを開催してきた。同センター長(日本語学科教授)の曽秋桂さんに国際シンポ開催の経緯を聞いた。

 淡江大学は1950年創立、日本語教育に力を入れ、現在は大学、大学院合わせて約1400人が日本語学科で学んでいる。曽センター長によると、最初は翻訳本で次いで日本語を学んで日本語で村上作品を読んできた学生たちから、村上春樹氏や同氏の作品を研究したいという希望が多数出るようになった。指導する立場の曽さんは悩んだ。曽さんは日本文学を研究するため、日本の大学院に留学経験があり、恩師から研究対象は夏目漱石、森鴎外などいわゆる文豪にすべきで、「生きている作家は研究してはならない」という教えを受けていた。

村上春樹研究センターのスタッフと、これまでに出版された同センターがかかわった書籍など

 学生たちからの要請は高まり、教官たちも要請に応じざるを得なくなった。曽さんは「学生を指導するため、自分で村上作品を読まなければならない」と考え、村上作品をすべて読んでみることにした。作品を読み進め、『ダンス・ダンス・ダンス』を読んだときにハッとして気づいた。村上作品に、曽さんが好きな漱石の作品である「こころ」「道草」「吾輩は猫である」などに共通するものがあり、「本心から村上春樹につきあってみようと」と決めた。

 授業でも村上作品を積極的に取り上げ、「学生たちと一緒になって『ノルウェイの森』を一緒に読んだり、『1Q84』について討論したり、とても楽しかった」と語る。

 2011年に、大学の日本語学科の教員らで私的な集まりである村上春樹研究室を組織し、翌12年に同大学で第一回の国際シンポジウムを開催した。日本からは日本文学研究の小森陽一さんらが参加、講演した。以来、毎年、国際シンポジウムを開催している。研究室は14年、大学の認可を受けて村上春樹研究センターに昇格し、曽さんがセンター長に就任した。現在のセンターの常勤スタッフは4人という状況だ。2010年の第10回国際シンポジウムには、中国から村上作品の研究者である北京外国語大学准教授(当時)の楊炳菁さんが参加している。

淡江大学村上春樹研究センターでパソコンに向かう曽秋桂センター長

 村上春樹氏は公の場にあまり姿を現さないことで知られ、同センターと村上氏の関係が気になるが、曽さんによると、第一回の国際シンポジウムでは、本人自筆のメッセージが届いた。昨年10月に同センターのスタッフの一人が亡くなった際にも、本人からお悔みのメッセージが届き、あわせて「台湾の読者のみなさまは私の作品に対して最初の時期から終始温かい姿勢で接してくださいました。また作品研究も他の地域にもまして盛んでありました―」などと感謝の言葉を示したという。 〇6月の国際シンポジウムは、台湾日本語教育学会などとの共催、日本台湾交流協会台北事務所の後援で行われ、「村上春樹文学における『擬態』mimicry」というテーマで、両日ともそれぞれ120人が参加する予定。曽さんによると、来年24年は同大学と提携している早稲田大学で国際シンポジウムを開催する計画が進んでいるという。