ドキュメンタリー映画「呉さんの包丁」が語る金門からのメッセージ

0
試写会で、金門で上映するために中国語の字幕をつける作業が残っていますと語る林雅行監督
試写会で、金門で上映するために中国語の字幕をつける作業が残っていますと語る林雅行監督

クリエイティブ21製作、林雅行監督のドキュメンタリー映画の試写会が、7月19日、都内で行われた。林監督は1953年、名古屋生まれ。NHKやTBSのドキュメンタリーを制作しながらこれまで、「友の碑~白梅学徒の沖縄戦~」(2003年)「風を聴く~台湾・九份物語~」(2007年)など6本の作品を劇場公開してきた。

7本目の公開になる「呉さんの包丁」は2010年11月~2012年10月まで、金門島を中心に台湾本島(台北県・高雄県)でも取材が行われた、全120分の大作である。

主人公は、名の知られた鍛冶職人、台湾・金門島在住の呉増棟さん(56歳)だ。呉さんは「金合利鋼刀」という自分の工房(工場)で包丁をつくる。とはいってもただの包丁ではない。ちなみに呉さん一族初代は、中国の厦門で鍛冶屋を営んでいたという。二代目(父親)が金門島に渡り、呉さんは三代目。

呉さんがつくる包丁は、実は1958年8月23日の夕刻に始まった中国共産軍から金門島に向けた激しい砲撃(823砲戦では48万発が撃ち込まれた)の遺産である。つまり、その後も約20年間に渡り、断続的に撃ち込まれた宣伝弾(中に宣伝ビラが入っている)を材料につくる。呉さんの父親が1960年代半ばから砲弾を利用して包丁をつくり始めたのが最初。呉さんはその後を継いだ。

冒頭、砲弾から1丁の包丁をつくり上げるシーンは圧巻だ。砲弾をバーナーで切断し、コークスで焼いてハンマーで叩いて何度も研いで、最後にはピカピカの包丁に。呉さんは、この包丁づくりに台湾と大陸双方の平和への願いを込めていると語る。

この映画は、金門島という極めて特殊な島を通して、「828砲戦」「金門島の変化(砲戦終了、戒厳令解除、民主化、小三通)」「金門秘史(日本軍占領、アヘン、華僑、国共内戦)」といった知られざる歴史を、貴重な映像を通して教えてくれる。

印象深いのは金門のお年寄りへのインタビュー。日本軍のことを非常にネガティブに率直に語る。親日台湾のイメージはない。

「金門は大陸とは価値観が異なりますし、台湾の教育で育ちました。ですから台湾のなかの金門であり、私たちは台湾人なのです」(呉増棟さん)

工場見学に訪れた小学生たちに呉さんは包丁づくりの一部始終を見せ、砲弾から包丁を作る意味を語って聞かせる。子どもたちはそんな呉さんを「かっこいい」と評した。

【上映】

2013年8月24日(土)から東京・渋谷ユーロスペースにてロードショー。その後、都内、横浜、名古屋、京都、大阪など主要都市の映画館で上映予定。